プライベート・マーケット:責任投資をどのように組み込むか
以下は、2021年12月16日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら。
責任投資を通じてポートフォリオの将来性を確保する上で、プライベート・マーケットは有用です。投資家が考慮すべき主要なトレンドと課題について、プライベート・マーケット担当ディレクターのサマンサ・スティールが解説します。
責任投資は「あると良い要素」から「必須要素」に変化
現在では、プライベート・マーケットと上場市場のいずれにおいても、責任投資は世界的に認知されています。その背景には、環境・社会・ガバナンス(ESG)に対する意識の高まりがあります。ステークホルダーのために持続可能な成果を生み出す目的だけでなく、リスクに配慮するという面でも、責任投資の重要性が増しています。
バンク・オブ・アメリカが最近実施した調査によると、ミレニアル世代の90%は、「投資によって変化をもたらすこと」を第一の投資基準としています。一方、ベビーブーム世代では、そのように考えている割合は半数弱です。この事実からも、責任投資への需要が増えていくことが予想できます。もちろん投資家の動機は様々ですが、透明性の高いデータや指標への投資が増加していることから、資本市場では資本コスト算出においてESGリスクを考慮する傾向が強まるでしょう。
さらに、世界中の政府機関が責任投資やサステナビリティに関する規制やガイダンスを強化しており、こうした資産の運用残高は今後も増加していくと考えられます。アセットオーナーがESGファクターを投資判断に組み入れる際には様々な課題がありますが、責任投資への注目の高まりによってプライベート・セクターで多数の機会も出現しています。
プライベート・マーケットが責任投資戦略に適している理由
パブリック・ファイナンスは、持続可能な開発への投資において重要な柱ではありますが、資金需要をすべて満たすことはできません。持続可能な開発(持続可能性に優れたグリーン・ビルディングの新規建設、既存建築物のネットゼロ化など)を拡大していく上で民間投資が重要になることについては、コンセンサスが高まっています。持続可能なリアル・アセットにはギャップが存在しており、民間セクターはこの数年にわたり、そのようなギャップを埋める機会を活用してきました。例として、再生可能インフラなどの成長分野が挙げられます。
プライベート・マーケットは、リスクとリターンの面で魅力的な機会を提供していますが、プロジェクトの観点からも資本のスチュワードシップに強い影響力を及ぼすことを可能にします。そのため、プライベート・マーケットは、環境・社会・ガバナンスをターゲットとした取り組みのための強力なチャネルとなっています。
サステナブル投資の最新動向
2015年以降、気候変動は投資ポートフォリオで取り組むべき主要なサステナビリティ課題の1つとなっています。気候変動の緩和には以下の3つのテーマが極めて重要であるとラッセル・インベストメントは考えています。
- エネルギー革命:現状、再生可能エネルギーが総発電量に占める割合は26%に過ぎませんが、これまでの十数年間で太陽光発電のコストは89%、風力発電のコストは70%低下しています。i2050年までに、再生可能エネルギーが発電量に占める割合は50~65%になると予想されています。ii
- 電化の増進:エネルギー効率向上は、エネルギーの供給方法だけではなく、利用方法によっても推進できます。様々な要因(5G、インフラや交通の電化など)によって、電力需要は劇的に増加すると予想されています。
- 産業の脱炭素化: 持続可能な成長を支え、気候の移行リスクを管理するためには、代替燃料が必要です。脱炭素化を推し進めるには、グリーン電力やグリーンモレキュラーに由来する代替エネルギー源(バイオ燃料、水素など)が欠かせません。
サステナブル投資が直面するグローバルな課題
ベンチマーキング: 共通の問題となっているのは、サステナブル投資の性質が曖昧なこと、そしてサステナブル資産の比較が困難なことです。しかし、リアル・アセット向けのグローバルESGベンチマークであるGRESBなどの新基準により、状況は改善しつつあります。インパクト戦略については、グローバル・インパクト投資ネットワーク(GIIN)などの組織が、適切なインパクト指標に関するガイダンスを投資家に提供すべく取り組んでいます。
グリーンウォッシング: 環境問題に対して真剣に取り組むつもりのない運用会社が、標準的なプライベート・マーケット・ファンドをインパクト・ファンドとして販売している場合が多数あります。その結果、インパクト投資に対する信頼が損なわれてしまっています。
資本の流入増:サステナブル投資に対する需要、特に国連の持続可能な開発目標(SDGs)と直結した資産に対する需要により、価格が上昇しています。市場の一部では、理解を超えた価格さえ散見されます。こうした資産に投資する際には、メリットに関する評価を十分に行うことが重要であると再認識すべきです。
新興運用会社:責任投資の拡大に伴い、新たな商品も増えています。経験の浅い投資家にとっては、短期間の実績しかない場合が多い新興運用会社に運用を委ねるのは、非常に困難なことかもしれません。
結論
サステナブル投資における幅広い機会やリスクを考慮すると、優れた投資プロフェッショナルと連携することが極めて重要です。優秀なオペレーティング・パートナーのネットワークにアクセスできる投資家は、変化し続けるリスクを識別する上で有利な立場に立てます。
様々な戦略が幅広いリアル・アセットに広がっているため、ESGを予想資本コストに組み込むことは、リアル・アセットの持続可能かつ責任ある成長を実現する上で不可欠になるとラッセル・インベストメントは考えています。
i 出所:Global Trends in Renewable Energy Investment 2019, Frankfurt School(2019年9月)
ii 出所:Global Trends in Renewable Energy Investment 2019, Frankfurt School(2019年9月)