企業年金の採用戦略数と夏季オリンピックの種目数、10年前と比べて増加率が大きいのはどちらでしょう?
答えは企業年金の採用戦略数
企業年金は採用戦略数を増やしてきた
2020年の東京オリンピックでは33競技339種目が実施される予定だ。2008年北京、2012年ロンドンでの種目数はともに302であったから12%の増加である。ちなみに1964年の東京オリンピックでは19競技163種目が行われ、日本は16個の金メダルを獲得した。
では、一企業年金当たりの採用戦略数はどうだろうか。約10年前と現在のポートフォリオを比較すると、採用戦略数は33から53へと増加し、その増加率は61%である*。オルタナティブ投資においてファンド・オブ・ファンズ戦略の採用からシングル・マネージャー戦略の選定へ転換してきたことが主な背景だが、伝統資産の分野でも新興国市場やクレジット市場へと投資対象が拡張されてきた。
一方で、企業年金の運営体制に目を向けると、年金運営に携わる方々は数年で担当変更となる場合が一般的という印象だ。弊社では企業年金・公的年金の新任担当者の方々に対し定期的に新任研修を行っているが、実際新任の方の戸惑いとしてよくお聞きするのが、「採用戦略が多い」「採用戦略の運用手法が複雑、リターンパターンが分からない」といったお話だ。
* 弊社のコンサルティング顧客において2007年12月末と2018年12月末の採用戦略数を確認することができた13顧客のデータを利用した。代行返上により極端に採用商品数が減少した厚生年金基金(1件)は調査から除いた。33は2007年12月末時点の採用戦略数の中位値、53は2018年12月末時点の採用戦略数の中位値である。
運営のバランスはとれているか
アクティブ運用の成功要因を押さえるのに「アクティブ運用の基本法則」という公式がある。この法則は、アクティブ運用における超過収益の大きさを、①優れた銘柄を正確に当てられたか、②意思決定の回数の多さ、③投資判断をタイムリーにポートフォリオに反映できたか、という3要素によって説明しようとするものである。
この法則を年金運営に当てはめてみる。すると、年金運営の良し悪しは、①優れた運用戦略を選択できたか、②採用戦略数や資産クラスの数、③運用戦略の入れ替えや、資産クラス間のリバランスをきちんと執行できたか、という要素が適切に組み合わされているかどうかということになると考えている。
本来の法則では想定されておらず、年金運営では考慮しなければいけないことが、担当者の資産運用に割ける時間や知見・スキルの蓄積といった制約だ。荒っぽい言い方かもしれないが、ここ10年程度は低金利化を中心とした外部環境に適応するため、年金運営は投資対象を拡張し、採用戦略の分散を図ってきた (②の強化) が、反面、個々の採用戦略の評価(①)や、各資産クラスにおける運用機関構成のバランス(③)に目が届きづらい状況が生じているのではないだろうか
対応方法として考えられること
バランスの良い運営を実現するにはしっかりとモニタリング・運営できる分野を絞り込むことがカギだと思われる。実践的な取り組みとして、例えば、以下3通りの工夫が考えられる。
- 投資対象資産クラス・採用戦略数を見直す
例えば、債券運用において利回り向上の目的からクレジット戦略に取り組んできた企業年金も多いだろう。一方でクレジット戦略は株式との相関が見られるのも事実である。ポートフォリオ全体を見渡したとき、クレジット戦略の分散効果や各採用戦略の役割や必要性を検証する必要があるだろう。 - 一部の管理を外部に任せる
近年マルチ・アセット戦略や、オルタナティブ投資を中心として特定の資産クラスにおける運用管理全体を引き受けるゲートキーパーが増えてきている。先述の公式に従えば、マルチ・アセット戦略が主に担うのは②や③(資産クラス間の機動的なアロケーション)、ゲートキーパーが担うのが①や③(優れた運用戦略の選定とその組み合わせ)になるだろう。こういった機能をうまく活用することで担当者は運営能力を補完することができる可能性があろう。 - アクティブ運用比率の調整
伝統資産におけるアクティブ運用を、長期的に超過収益を獲得しやすいと考えられる資産クラス、または配分比率が大きく、資産全体に対し超過収益に与える影響が大きい資産クラスに絞って実施する。そうすることで1資産クラス当たりの運用機関構成の検討に割く時間を増やし、①、③の精度を上げることを目指す。
現在の経済環境を景気サイクルの後半と見る外部機関が多い中、運営のバランスは重要性を増すだろう。2020年東京オリンピックまで500日を切り、強化指定選手が選抜される競技・種目も多いが、年金運用においてもポートフォリオ全体を見直して、強化を検討してみる好機ではないだろうか。