2022年第1四半期(1‐3月期)債券調査:予想以上に厳しいインフレの制御

以下は、2022年3月14日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文は こちら。内容は作成時点のもので今後市場や経済の状況に応じて変わる可能性があります。また、当見解は将来の結果を保証するものではありません。

今回は、60の主要な債券・為替運用会社を対象に、今後数カ月間のバリュエーションや市場予測、今後の見通しについてどう考えているかを調査した。

前回の調査では、市場関係者は2022年下半期に米FRB(連邦準備制度理事会)が利上げを実施すると予測していた。一方で、ECB(欧州中央銀行)はインフレに関して供給要因による問題であるにもかかわらず、物価上昇は一過性であると、よりハト派的な立場をとった。これに米国債券よりも欧州債券を好む投資家は賛同した。また、各運用会社は、米国のハイ・イールド債券市場のリターンに関しては消極的な姿勢を見せた他、中国の不動産市場の債務問題が新興国債券市場に与える潜在的な影響にも取り組んだ。

その後、高止まりするインフレと、米国の金融政策の引き締めが予想以上に早く実施されたこともあり、2020年3月の新型コロナウイルス拡大懸念による急落以降、金融市場全体にとって2022年1月は最悪の月となった。BoE(イングランド銀行)は2004年以来の連続利上げを実施し、2月に金利を0.25%から0.5%へと引き上げたが、ラガルドECB総裁は、年内の利上げを拒否した。一方で、中国の不動産市場における債務問題が続いたものの、グローバル市場には大きなボラティリティは起こらなかったが、今回の調査結果が出た後の2月24日にロシアがウクライナに侵攻したことで、ロシア、ウクライナ、NATO(北大西洋条約機構)諸国間で地政学的な緊張が高まった。

この状況を受け、インフレや金融政策の引き締め、リスクレベル上昇の影響について、各運用会社の見解に変化があったのか注目していきたい。

高いインフレがハト派を抑える

ソブリン債運用会社の見解

  • 米国でインフレが長期化するに従い、各運用会社は今後12カ月間の予測を修正した。3分の2の運用会社はインフレ率が2.5%~3.5%の間を推移すると予測している。一方で、回答者の9%のみがインフレ率が2.0%~2.25%の間を推移すると予測しており、インフレ率が2.0%以下となると答えた運用会社はゼロだ。
  • なお、91%の運用会社が、FRBは3月に利上げを実施すると確信していた。その後、投資家の大半(52%)は、FRBが年内に4回の利上げを実施すると予想している。2022年以降について、投資家は更に3~4回の利上げが実施されると予想している。しかし、今後情報が更新され、新たなデータが発表される度に投資家の予想は変動していく可能性が高い。
  • 大半の運用会社(59%)は、FRBのテーパリングによって、米国債の需給バランスが悪化すると予想している。さらに、47%の運用会社が、景気刺激策が景気回復を支え、金融政策の引き締めによる悪影響を部分的に相殺することを期待している。
  • リスクに関しては、運用会社の大半(61%)が、政府または中央銀行による政策ミスが主なリスク要因としている。一方、スタグフレーションに対する中期的な懸念は今回の調査では26%にとどまっており、前回の調査の53%を下回っている。それとは対照的に、リスク資産の買戻しによる価格変動を主な中期的な懸念とする回答者は、32%から50%へと増加した。

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出所:ラッセル・インベストメント 2022年第1四半期(1-3月期)債券運用機関調査

投資適格社債運用会社の見解:センチメントの変化

  • 各運用会社は、2021年に観測されたデレバレッジのトレンドが終息すると感じている。回答者の半数が、米国のBBB-格の企業が一定のレバレッジ水準を保つであろうと見ている。同時に、企業のレバレッジ水準によって、レバレッジが大きく上昇することを予測する者もいる。さらに、投資家は、欧州のBBB-格の企業についても安定したレバレッジを維持するとみており、回答者の61%がそのように答えている。
  • その一方で、現在のスプレッドが、クレジットのクオリティー低下に対する潜在的なリスクを補うと考えている運用会社の割合は安定的。しかしながら現在のスプレッドとレバレッジを鑑みて継続して注視すると回答した運用会社の割合は2021年5月の40%から、2021年9月には30%、そして2022年1月には21%にまで落ち込んでいる。
  • 興味深いことに、キャッシュに対して投資適格社債の魅力は低下したと各運用会社は考えている。これは、2018年半ば、投資家がFRBの金融政策強化に注目した際に観測された時と同水準の低さである。これは、投資家が企業のファンダメンタルズよりも、金利上昇の影響に関心を抱いていることの表れでもある。
  • また、各運用会社は引き続きハイ・イールド債の発行体を選好しており、前回の調査と比較してわずかに上昇した。また、証券化商品への関心も投資適格社債より高まっている。各運用会社はキャッシュに対する関心は急激に増加したものの、他の資産クラスへの関心も依然として高い。

グローバル・レバレッジド・ローン

  • グローバル・レバレッジド・ローンの運用会社は、スプレッドの縮小は期待できずアップサイドは限定的であると考えている。一方、スプレッドの緩やかな拡大を見込む運用会社の割合は、20%から47%と増加した。ただし、スプレッドを横ばい状態と見込む投資家の割合は、80%から53%に減少した。
  • 各運用会社は、発行体のクレジット・スタンスに対して概ねポジティブだが、確信度は低い。企業のファンダメンタルズが向上すると予想する運用会社の数は、2021年9月の85%から2022年には65%へと減少した。同時に、クレジット指標が比較的安定すると予想する回答者の割合は、10%から30%へと増加した。
  • 各運用会社は、米国のレバレッジド・ローンを選好しているなど明確な選好を示した回答者は24%から40%に増加した。一方で、新興国債券市場への関心は、前回の調査比で10%程度低下した。
  • フォーリン・エンジェル債への確信度は高く、調査の回答者の半数が、フォーリン・エンジェル債に対して非常に高く期待していると回答しており、残りの半数においても投資妙味はあると答えた。
  • その一方でリターンに期待する投資家は大幅に減少しており、2021年第3四半期の回答者の48%はリターンが4.0%~4.9%程度と回答したところ、今回の調査では、回答者の半分がリターンは0.0%~2.9%程度と予想する。しかし、各運用会社は、今後12カ月間でマイナスのパフォーマンスはないと考えている。
  • 投資家の関心は、主にインフレ(回答者の30%)と中央銀行による金融政策の引き締め(同40%)に傾いている。これによって、地政学的リスクの高まりや、GDP成長率の減速がより重要性を失うと考えられる。一方で、新型コロナウイルスが世界規模の流行から特定の地域における流行へと移り変わり、重大な懸念材料ではなくなっている。

世界各地のリスク

新興国市場

  • 現地通貨建て新興国債券の運用会社の約63%は今後12カ月間、59%は今後3年間にわたって新興国市場の通貨に対してプラスのパフォーマンスになると予想している。
  • 今後12カ月間、米国ドル建て債券よりも現地通貨建てを選好すると述べた運用会社は、以前の調査結果では57%だったが、今回は70%となった。一方で、前回の調査では77%が現地通貨建て債券を選好すると回答したものの、今回は58%程度となっており、長期投資としての魅力度は低下した。
  • 地域別では、54%と大半の投資家が引き続き南米を選好した。一方で、40%の運用会社は、2022年ではトルコリラが新興国通貨の中で最も悪いパフォーマンスとなると予想しており、前回の調査時だった32%から増加した。
  • ロシアルーブルへの関心は低下しており、新興国通貨の中で最もアウトパフォームすると予想した運用会社は19%にとどまり、前回の37%から大きく低下した。これは、ロシアがウクライナに侵攻したことで、欧米諸国がロシアに対し強力かつ広範囲な制裁を科した影響によるものである。
  • 米ドル建て新興国債券に関しては、運用会社の38%が今後12カ月でスプレッドが縮小すると予想しており、29%と回答した2021年第3四半期を上回った。一方で8%の運用会社はスプレッドは拡大すると回答した。今後12カ月間の加重平均期待収益率は3.0%となっており、2021年第3四半期調査に比べて約0.72%低下している。
  • 今後12カ月間で最も高いリターンが期待できる国として名前が挙がったのは、前回調査に続きエジプト、ウクライナやメキシコだった。中国とフィリピンは、引き続き国別アンダーウェイト(最も選好されない国)のトップ2となっている。

欧州とアジア太平洋地域の通貨

  • 3分の2の運用会社は、ユーロが1米ドルあたり1.11~1.20ユーロで取引されると予想している。しかし、大半の運用会社は、一定期間ドル安に転じると予想しており、1米ドルあたり1.01~1.10ユーロまで下がると考えている。しかし、78%の運用会社はユーロが1米ドルあたり1.20ユーロで取引されると予想していないため、非対称的なリスクとして捉えられている。
  • 英ポンドについては、3分の2の回答者が、1米ドルあたり1.31~1.40ポンドで取引されると予想しており、ユーロ同様、英ポンドの上昇は限定的になると捉えられている。回答者の69%が、年内には英ポンドは1米ドルあたり1.40ポンドの水準を超えると考えていない。
  • 22%の運用会社は、日本円がG10諸国の通貨の中で最も悪いパフォーマンスになると予想している。米ドルのパフォーマンスに関しては、確固たる意見の一致は見られない。運用会社の28%が、米ドルが豪州ドルと並んで最も優れたパフォーマンスになると考えているにすぎない。

証券化商品

  • 証券化商品に対しては保守的な見方は減少している。運用会社の43%は今後12カ月間にリターンを重視した証券化商品をポートフォリオに加えると回答しており、2021年第3四半期の19%から増加した。同様に、43%がリスクを維持すると回答しており、前回調査の75%から減少している。
  • 有効性の高いベータのポジションの取り方について、67%の運用会社はすでにそれぞれのポートフォリオでロング・ポジションを取っており、、2021年第1四半期調査の27%から増加した。ただし、ショート・ポジションを取っている運用会社は14%に留まっているが、21%はさらにショート・ポジションを追加する予定だ。
  • ノンエージェンシーのスプレッドが縮小すると見る投資家は、2021年9月の50%から2022年の14%へと減少した。一方で、スプレッドがレンジ内で推移すると述べた運用会社の数は、31%から43%に増加し、スプレッドが拡大すると述べた運用会社は、19%から43%に増加した。
  • 各運用会社は、CLO市場に対するリスクについて見解が分かれた。57%が、主なリスクとして広範なリスクオフ環境を挙げ、次いで、原資産ローンの担保の信用低下を挙げた。

結論

2021年はインフレが続き、FRBとBoEがよりアグレッシブに介入すると示唆したことで、市場関係者を驚かせた。市場とFRBは、今年の利上げのタイミングについて目線を合わせたことで1月の市場の大幅なボラティリティをいくらか和らげた。そのため、投資適格社債の魅力はやや低下した一方で、ハイ・イールド債の需要が高まった。

ラガルドECB総裁は、早い段階から金利上昇が景気回復に打撃を与える可能性があると警告している。そのため、各運用会社は、米国の投資適格社債に対して欧州の投資適格社債をややポジティブに見ている。一方で、ECBが年内の利上げを否定しているため、いくらか政策への不確実性が生じ、投資家のセンチメントが変化する可能性も考えられる。

新興国市場では、中国の不動産市場が中国経済全体に及ぼした悪影響が顕在化されず、センチメントはわずかに回復した。各運用会社が、トルコではなく南米を選好した理由は、トルコ中央銀行による異例な金融政策に起因すると考えられる。ロシアとウクライナの関係には緊張感が高まっているものの、投資家はウクライナを好意的に見ている点を鑑みて、地政学的な情勢が引き起こすリスクを各運用会社がやや楽観視しすぎているとラッセル・インベストメントは考えている。

また、新型コロナウイルスへの懸念が低下した要因は、ワクチン接種プログラムが展開され、変異株への対策が進んだことにある。新型コロナウイルスはパンデミックからエンデミックに移行しつつあるが、2021年末に再び市場に対する確信度が高まった中、オミクロン変異株の出現により、市場のボラティリティが大きく膨らんだ。今後、また悪質な変異株が出現し、景気回復の勢いに水を差す可能性があるのだろうか。