2022年第2四半期(4-6月期)株式運用機関レポート:深刻な景気後退の可能性は低い
以下は、2022年8月3日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文は こちら。内容は作成時点のもので今後市場や経済の状況に応じて変わる可能性があります。また、当見解は将来の結果を保証するものではありません。
景気後退リスクは高まっている可能性があるが、ラッセル・インベストメントの第2四半期レポートで調査した株式運用機関の大半は、今後1~2年間で世界経済が景気後退入りした場合でも、深刻な景気後退にはならないと予想している。
本レポートでは、多くの株式運用機関がボラティリティの高止まりに備えて、慎重なポジショニングを続けていることも明らかとなった。インフレが企業業績に与える影響、景気後退リスクの高まり、経済成長見通しの悪化などを背景に、価格決定力が高くバランスシートも健全な企業が引き続き選好されている。
第2四半期は、急激に進むインフレや世界的な景気後退リスクへの懸念から悲観的なセンチメントが支配し、株価がさらに下落する中、特にグロース株の低迷が顕著だった。高成長テクノロジー株の底値が近いのか、一層の下落があるのかについては、運用機関の間でも意見がいまだに割れていることが本レポートで明らかになった。マルチプル(PER等の株価倍率)が低下する中で、底堅い業績を維持する企業もあるものの、運用機関は、景気が減速していく今後数か月がマルチプルを左右する売上や利益予測のバロメーターになると見ている。
ここ数か月は世界的な投げ売り相場となり、ほぼすべての市場において、第2四半期のリターンは米ドル建、現地通貨建のいずれもマイナスとなった。例外は中国で、他市場をアウトパフォームしたのみならず、主要経済国の中では唯一、第2四半期の絶対リターンがプラスとなった。COVID-19との闘いが続いており、ゼロ・コロナ政策が経済に影響を及ぼしているにもかかわらず、投資家は中国に対してポジティブな見方を強めている。その理由は、中国が他国とは違う景気サイクルにあるからだ。まだリオープニング(経済活動再開)・トレードの段階には至っておらず、中国政府は成長刺激策への転換を進めるなど、引き締め期にある他の主要国とは対照的と言える。
第2四半期の市場環境は、米国大型株、米国小型株、日本株、カナダ株、オーストラリア株の羽陽機関にとって比較的良好だったが、グローバル株(除く米国)、新興国株、欧州株、英国株、グローバル・インフラストラクチャー株の運用機関にとっては非常に難しい環境だった。注目すべき点として、ほとんどの地域で低ボラティリティ株が好成績を上げ、バリュー株も好調だった一方で、グロース株やクオリティ株はおおむねアンダーパフォームしている。ここでも例外は中国で、株価低迷やネガティブな市場センチメントが長期間続いた後に、Eコマース銘柄などのインターネット関連のグロース株が回復したことで好成績を残した。第1四半期ほどではないものの、第2四半期においても投資スタイルの違いが各戦略のパフォーマンスを左右した。
本レポートは、ラッセル・インベストメントが運用機関との間に築いた独自の関係を活用して、運用機関のスペシャリストの見解を読みやすい形にまとめたものである。2022年第2四半期の世界の主要な株式市場と地域について、主な戦術的見通しを以下で紹介する。
オーストラリア株式
インフレの悪影響
- 企業業績はインフレの影響を受けた。特に電力・燃料高が投入コストを直撃している。
- 運用機関は引き続き、インフレ環境下での利益率確保や構造的成長が見込める企業を選好した。ヘルスケアセクターと生活必需品セクターに最も投資妙味がある。
スクリーニングの定義がサステナブル投資に与える影響
- オーストラリアのサステナブル戦略の大半において、独自のESG(環境・社会・ガバナンス)テーマ基準を満たしていない企業は、スクリーニングによって投資対象から除外される。スクリーニングの定義や基準には大きな違いがあり、各戦略の投資機会に直接影響を及ぼしている。
- 基準と測定方法:除外対象の活動から得ている収益の割合を基準としている戦略が大半だが、純利益を基準としている戦略もある。通常は10%が上限で、5%を上限とする場合もある。
- 間接的事業を含めるケース:対象企業の顧客の事業活動も含めてスクリーニングする戦略もある (例:パッケージング企業において、酒造業者向けに販売された製品の割合)。
- 化石燃料:あらゆる石炭を除外するか、サーマルコール(一般炭)のみを除外するかについては対応が分かれている。現在は製鉄用の実用的な代替原料がないため、原料炭へのエクスポージャーが大きい企業を除外しない運用機関もある。原料炭を除外しない場合には、ASX 300指数の10.5%を占めるBHPグループが投資対象となる。
- 金鉱株:金は社会に貢献しないとの考えから、金鉱株を除外する戦略もある。金鉱株はASX 300指数の2.3%を占めている。
- ネガティブスクリーニングによってASX 300指数の15~25%が投資対象外となるが、サステナビリティ投資に対する追い風と銘柄選定スキルによってASX 300指数をアウトパフォームできると運用機関は考えている。
カナダ株式
景気後退懸念が高まりディフェンシブなポジショニングが続く
- 厳しい金融引き締め政策と経済成長の減速により、景気後退に陥るリスクが高いと運用機関は判断しており、収益悪化も予想している。ただし、深刻な景気後退になるとは考えていない運用機関が大半である。
- 市場のボラティリティが高止まりし、マクロ経済の不透明感が続いているため、多くの運用機関は、売買を再び活発化させるきっかけを待っている状態である。また、景気敏感株やハイグロース株へのエクスポージャーを減らし、引き続きディフェンシブ株にシフトしている。
原油価格は調整しているが、エネルギー株の長期見通しは引き続き強気く
- エネルギー株のファンダメンタルズについて、運用機関は強気に見ている。なお、コモディティ価格の下落が始まり、景気後退懸念から今後も下落し続ける可能性があるが、エネルギー株とは切り離して考えられている。
- 運用機関はエネルギー株の下落を待たず利益を確定し、多くの運用機関が第2四半期をアンダーウェイトで終えた。セクター内では、インフラ関連株がディフェンシブ性から全般的に選好されたが、エネルギー生産企業への投資を通じてエネルギー株のベータを引き上げた運用機関もあった。
- 長期的なセクター見通しは変わらずだった。ロシア・ウクライナ戦争でエネルギーの安全保障問題が注目を集めたことが支援材料となった。特に天然ガスの見通しは、エネルギー転換の追い風に支えられている。
運用機関は弱含んだセクターとして素材株を注視く
- コモディティ銘柄の中では、直近で急落した銅に注目している運用機関が多いが、景気敏感銘柄であるためタイミングには注意を払っている。また、銅の長期サイクル、エネルギー転換の追い風、そして長期の供給逼迫に言及している。
- 農産物関連のコモディティ銘柄には妙味があるが、短期的にはロシア・ウクライナ戦争によるボラティリティが懸念される。
不動産リスク懸念で銀行株のエクスポージャーが低下く
- 不動産評価額の下落リスクに対する懸念が拡大している。運用機関は、銀行がクレジットリスクを吸収できると考えているが、しばらく様子見の姿勢をとっている。
新興国株式
注目は中国株式く
- 中国の市場や規制には不透明感があったが、あらゆるスタイルの運用機関が中国に再投資している。
- ロックダウンの緩和により、旅行関連テーマの収益見通しが改善してきた(航空会社、免税店など。ただし、マカオは依然として厳しい状況)。
- グロース株の運用機関によれば、中国の消費関連株において一株当たり利益(EPS)やキャッシュフローが正常化しつつある。
- 中国のネット関連銘柄に対する規制当局の姿勢が緩和され、インターネット取引の承認や、オンラインゲームの新規リリースが再開した。
世界経済の見通し悪化でコモディティ関連株とテクノロジー株は一服
- 景気後退や追加利上げ懸念により、一部の運用機関はコモディティ需要について慎重な見方をするようになり、素材株の利益確定を進めてきた。
- インフレヘッジになる生活必需品株へのシフトが起きた。その一方で、バランスシートやキャッシュフローが健全な企業を吟味している運用機関もあった。一部の運用機関によれば、中国やラテンアメリカのヘルスケア株や資本財株など、クオリティ株のバリュエーションが低下している。
- 半導体については、下方サイクル入りへの警戒が強まっている。世界的な需要緩和とこれまでの過剰発注が周知のものとなったことが要因である。
財政規律で報われるブラジル
- 他の新興国ではマクロ経済の悪化が加速する中、過去のインフレ経験から早期の引き締めに踏み切ったブラジルは底入れしつつある。グロース株とバリュー株の運用機関は、融資額の堅調な増加見込みと通貨安が輸出を後押しすると見て、金融株を増やしている。
- 10月に予定されている大統領選の世論調査でルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ元大統領が支持率トップに立ち、驚くほど市場寄りの中道キャンペーンを展開したことで、政情不安は落ち着きつつある。
中東における経済的野望
- 運用機関は大規模な財政支出を行うサウジアラビアに投資機会があると見ているが、辛抱強く投資タイミングをうかがっている。
欧州および英国株式
金融株に対する運用機関の見方はまちまち
- 運用機関の間では、マクロ経済の悪化と見るか、利上げによる短期的なプラスの相殺と見るかで見解が割れている。引き続きアンダーウェイトとしながらも、金融株のウェイトを引き上げている。
英国経済の減速に応じたディフェンシブなポジショニング
- 一部の運用機関は、ボラティリティが高まる中で資金を守るため、キャッシュ・ポジションを通常より若干高めている。
- 資本財セクターでは、ディフェンシブなグロース株へのシフトが進み、ヘルスケア株や公益事業株もオーバーウェイトに転じている。
- 景気敏感銘柄である鉱業株、コモディティ関連株、エネルギー株などは景気後退の影響を受けるため、ポジションの低下や利食い売りの動きが見られた。
ボリス・ジョンソン首相辞任への反応は薄い
- 英ポンド上昇の可能性はあるものの、経済成長、金利、物価高騰による家計の逼迫、ウクライナ問題など、英国が抱える重要な課題についてはいずれも、ジョンソン首相辞任後も変化が見られない。
欧州でクオリティ株の低迷が続く?
- バリュー株から大幅に後れを取っていたクオリティ株とグロース株について、大半の運用機関は追加投資を見送った。クオリティ株とグロース株のバリュエーションは依然として10年平均より約30%高い水準で推移している。欧州・米国いずれにおいても、実質インフレ率の継続的な上昇が追加利上げ開始のきっかけになる可能性が高い。
物価高騰による家計の逼迫
- 一般消費財セクターにおいて、低所得層を顧客としている企業へのエクスポージャーを運用機関は警戒するようになった。物価高騰による負担増は低所得層で最大となった一方で、高額所得者層は新型コロナによるロックダウン期間中に貯蓄を積み増している。
グローバル株式
ニューノーマルとなったボラティリティに備える投資家
- 景気後退懸念が高まり、投資家の見通しが大幅に異なるなか、多くの運用機関が既存ポジションの維持にとどまっている。第2四半期の決算シーズンを前に運用機関が慎重になり、売買を控えているようである。
最大の懸念事項は引き続きインフレ、投資家は安定成長を望む
- 投資家は、生活必需品や価格決定力のある企業などのディフェンシブ銘柄を選好している。
- グロース株投資家は、生産性向上ソフトウェアや潤沢なキャッシュフローを持つテクノロジー銘柄のポジションを増やす一方で、ハードウェア企業やテレワーク関連銘柄には慎重になっている。
サプライチェーン問題が長引く中、バリュー株の運用機関はポジション堅持
- サプライチェーンの混乱や遅延は、半導体メーカーや、その顧客である自動車メーカーや自動車部品サプライヤーなどの収益を圧迫し続けている。バリュー株投資家は中間決算を下方修正しているが、有望株の保有は維持している。
サステナブル資産に対する期待からコモディティ価格は高水準を維持
- コモディティは第2四半期中にインフレヘッジ銘柄から景気後退リスク銘柄に転じた。しかし、貴金属の価格は通常以上の水準で推移しており、投資家からはサステナブル資産の成長に重要な役割を果たすことを期待されている。
エネルギー株に利食い売りも、まだ上昇余地も
- エネルギーは、今年の上半期をプラスで終えた唯一のセクターだが、炭素排出量ネットゼロへの移行は前途多難である。投資家は、需要改善と供給逼迫を受けて目先では楽観視しているが、長期的にはキャパシティの増加が温室効果ガス削減目標と矛盾するリスクを認識している。
金融環境が緩和的な日本株式は「守り」に貢献
- 投資家からは、高インフレや金利急騰の影響は比較的少ないと見られている。物言う株主の増加でコーポレート・ガバナンスの改善が期待できることもあり、注目が高まっている。
日本株式
インフレはまだピークに達していない
- 運用機関は、サプライチェーンと労働参加率が改善し、インフレ圧力が緩和されると見ている。ただし、正常化のペースが遅いため、目先のインフレは根強いと見る運用機関も多い。
- さらに、過少投資、グローバル化の反転、人口動態の変化が、構造的なインフレ圧力につながると考える投資家も増えている。
景気の不透明感が運用機関の取引に影響
- グロース株運用機関は、金融政策の引き締めを理由に、新興企業株式の全体的な回復に対して以前より懐疑的になった。一部の運用機関は、大幅な価格調整を経てバリュエーションの魅力が増したハイグロース株を厳選して買いを入れている。デジタル・トランスフォーメーション銘柄は、引き続き魅力的なテーマである。景気について保守的な見方をしている運用機関は、大型のクオリティ株へのシフトを進めている。
- バリュー株運用機関の多くは、経済感応度が高くパフォーマンスが良好だったエネルギー関連株やコモディティ関連株を減らし、消費関連株や金融株にシフトしている。日本は経済活動の正常化が遅れているため、内需関連株が割安で取引される傾向にある。
テクノロジー株はさらにネガティブ、金融株はポジティブ
- コロナ禍で増加したスマートフォンやPCの需要は、今後も調整が続くとの見方がより一般的になっており、運用機関はこれらの銘柄の購入を避けている。
- 一方、金利上昇期待から金融株へのエクスポージャーは高めている。黒田東彦総裁の任期満了に伴い、日銀が来年に量的緩和政策を正常化させると期待する向きもある。
ロング/ショート戦略
第1四半期からのテーマの加速
- 運用機関の多くで、保有エクスポージャーが過去最低の水準となった。6月初旬の米国株式ロング/ショート戦略のネットレバレッジも、世界金融危機以来の低水準に達した(35%)。
- 全体的なポジショニングを見ると、さらなる下振れリスクについて今もそれなりに懸念しているヘッジファンドが多いことがわかる。一方、運用機関は上昇相場に乗り遅れるリスクも認識している。
地域的なアロケーションのシフト
- 一部の運用機関は、市場でアンダーパフォームしている中国株式、テクノロジー株、バイオテクノロジー株、その他のヘルスケア株などへのエクスポージャーを高めている。
- 投資家は、アジアへの買いを増やす一方で、北米とEMEA(欧州・中東・アフリカ)のエクスポージャーを軽減させている。
ロング/ショート戦略のアルファがプラスに転じ、ショートの投資機会が増加
- 6月には、ロングポジションのアルファが昨年9月以降初めてプラスに転じた1。ショートポジションは引き続きアルファを生んでいる。
- 市場は大幅下落したものの、多くのヘッジファンドは引き続きショートの投資機会を見出している。
テクノロジーファンドの強制売却
- TMT(テクノロジー・メディア・テレコム)の分野で有名な運用機関が、パフォーマンス不振と解約請求により、売却を余儀なくされたと噂されている。
プライベート・マーケットのヘッジファンドさえも痛みを感じる展開
- ヘッジファンドがプライベート・エクイティの評価を下げ始め、この分野のアンダーパフォーマンスの一因となった。ラッセル・インベストメントでは、このような評価減が続くと予想している。
プライベート・マーケットのヘッジファンドさえも痛みを感じる展開
- 新規ヘッジファンドの組成数は、2021年第1四半期以来の高水準に達し、2017年第4四半期以降で2番目の水準となった2 。
- 株式以外のヘッジファンドが多く組成されている可能性がある。
リアル・アセット
グローバル不動産セクター
- 第2四半期中のグローバル不動産のパフォーマンスは株式全般と同程度だったが、長期的にはアンダーパフォームが続いている(過去3年では年率850ベーシスポイント以上のアンダーパフォーム)。グローバル不動産株も、プライベート・マーケットの価額に対してかなり(約20%)割安で取引された(出所:UBS)。
- テナントが余剰スペースを解約し、ジャストサイズのオフィスを求めるようになったため、オフィスセクターの需要は変わらず弱い。運用機関は賃貸契約の満了による空室率の上昇と家賃収入の減少を織り込んでいる。純資産額から37%も割安な水準であっても(出所:Green Street)、運用機関は米国オフィスセクターについてアンダーウェイトを維持している。現在、米国オフィスセクターはグローバルインデックスのわずか5.5%を占めるのみである。
- 現在グローバルインデックスのほぼ10%を占める米国の工業用不動産は低迷した(マイナス22%のリターン)。これは主にアマゾンが物流スペースの減床を発表したためである。運用機関は、アマゾンに代わり他のEコマース関連企業が入居し、全米稼働率の低下も97%から95%にとどまるとの予想を背景に、下落局面は買いのチャンスと見ている。さらに、賃貸契約の更改タイミングで、市場価格に合わせて新家賃を15~20%引き上げる機会ともなる。工業用不動産を所有するプライベート・マーケットの運用機関も、同様の見方をしている。
インフラ
- 第2四半期のインフラ株は、グローバル不動産や株式全般に対して大幅にアウトパフォームし、年初来では19%以上のアウトパフォーマンスとなった。このような圧倒的な好パフォーマンスは、見方次第ではインフラから不動産へシフトする機会となる。
- 空港施設は、航空会社や地上勤務員のオペレーションに問題が発生し、悪影響を受けた。ウクライナ危機も欧州における営業状況の悪化の一因となった。その結果、空港セクターのセンチメントは明らかにネガティブになった。
- 総交通量が100%に近く、高インフレにも強い有料道路が恩恵を受けている。ベネトン一族とブラックストーンによるアトランティア(時価総額180億ドル)の買収は、3,300億ドルを超えるとされるプライベート・キャピタルの購買力を見せつけた(出所:コーヘン&スティアーズ)。プライベート・キャピタルは上場インフラ資産取得のチャンスもうかがっている。このことは、インフラからのローテーションを評価するにあたり、重要なポイントである。
米国大型株式
エネルギー
- 投資家はエネルギー市場について、過少投資と供給ルートの変更による構造的な供給逼迫があるとして、引き続き投資機会があると見ている。ロシアによる欧州向け天然ガスの供給削減、地域間の裁定取引が難しいこと、景気後退による影響が少ないことなどを背景に、米国の天然ガス生産会社を選好している投資家もいる。
インフレ
- 今後もインフレが続くと仮定すると、あとで消費せずに今消費し続ける、というのが消費者にとって合理的な判断である。このため運用機関は、消費支出に支えられる旅行やレジャーなどのポジションを増やしている。
- 運用機関は、原材料の一部や物流価格など、インフレ圧力が緩和(必ずしも低下ではない)されたものもあると指摘している。一方、大半の運用機関が人件費の高騰は続くとの見方を変えていない。
- バリュー株運用機関は、高インフレ期において投資家はデュレーションが比較的短い株式(低PER株など)の投資を検討すべきであると指摘している。運用機関の大半が、債券市場やイールドカーブを見て、インフレの方向性や持続性、景気後退の可能性などを見極めている。
高成長テクノロジー株の底入れは近いか?
- 運用機関は、高成長テクノロジー株のPER縮小について、過熱感はなくなったと考えている。第2四半期終盤にかけてパフォーマンスが改善したこともあり、底入れした可能性がある。
- グロース株投資家は、このところ高成長テクノロジー株の売上高と利益予測についてポジティブな報告を受けており、第3四半期の決算シーズンには、パフォーマンスに違いが出始めるだろうと楽観視している。
米国小型株式
小型株のバリュエーションは絶対的・相対的ともに妙味があるが、足元の課題は残る
- Russell 2000インデックスがピークから約30%下落したことなどから、同インデックスの予想PERは2021年1月の32倍から17.7倍まで低下している。現在小型株は大型株と比較して25~30%程度割安で、長期平均を大幅に下回っている。しかし、ハイイールド債のスプレッドは2.8%から6%へ大幅に拡大しており、市場の緊張の高まりが表れたものとして、注意を要する。
銀行セクターには引き続き逆風
運用機関は銀行セクターに2つの重要な問題があると考えている。
- 数年前の規制の改正で、銀行は貸し出しにまだ問題がなくても、失業率の推定値をもとに貸倒引当金を積み増すことが必要となった
- 銀行の成長は依然として困難である
マーケット・オリエンテッドの運用機関はクオリティ・グロース株にチャンスを感じ始めている
- Russell 2000グロース・インデックスが約30%下落して過去最悪の上半期となったことを受け、マーケット・オリエンテッドの運用機関は、グロース株について売られ過ぎの可能性があると考えている。このような中、マーケット・オリエンテッドの運用機関はバリュー株の利食いを始めている。
エネルギー株から移行する運用機関が増加
- バリュー株とグロース株の運用機関は、いずれもエネルギー株の利食い売りをしている。ヘルスケアや公益事業などのディフェンシブ銘柄に乗り換える運用機関もあれば、、自動車部品サプライヤーなどのハイクオリティな遅効性のある景気循環株や、カジノや旅行などのその他消費分野にチャンスを見いだすバリュー株運用機関もあった。
グロース株運用機関は変わらずヘルスケア銘柄にチャンスを見いだす
- ヘルスケアセクターに対する信頼は、特に医療機器で強く、処置件数の増加から恩恵を受ける企業への信頼も厚い。また、管理医療についても、景気低迷期に強いセグメントと位置づけている。
結論
インフレ率の高止まり、各国中央銀行による積極的な金融引き締め、そして景気後退リスクの高まりの中、株式運用機関は引き続き慎重なポジションを取っている。そのような状況下で、運用機関のスペシャリストの見解は、ボラティリティや投資機会を活用するに当たって重要なものと考える。ラッセル・インベストメントでは今後も各運用機関の見解をご紹介していく予定である。
1 Morgan Stanley Prime Brokerageのデータ
2 HFR Market Researchのデータ