2021年第4四半期(10-12月期)株式運用機関レポート:ESGファンド、年末には世界のファンド資産の1割に
以下は、2021年1月28日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文は こちら。内容は作成時点のもので今後市場や経済の状況に応じて変わる可能性があります。また、当見解は将来の結果を保証するものではありません。
2021年は、投資家にとって環境・社会・ガバナンス(ESG)問題が前面に躍り出た年だったのだろうか。データを見る限り、確かにその通りだ。
投資家が企業や規制当局との間で、気候変動や社会正義の議論を押し進める機会が増える中で、昨年は6,490億ドル以上もの投資資金が、ESG関連ファンドに流れ込んだ。2021年末までにはESGファンドに大量の資金が流入し、世界中のファンド資産の約10%の金額にまで達した。ごく自然なことではあるが、2021年は株主による経営への関与の高まりや、世界中で気候変動の深刻化に対する政府による行動喚起が強化される中で、ESGの最前線で重要な動きがあった年として記憶されることになるだろう1。
また、2021年は新型コロナウイルスのオミクロン変異株の出現や、インフレ、金利引上げ、中国における経済成長の鈍化といった不透明感に関するニュースの見出しが躍り、市場のボラティリティが高まる中で年末を迎えた。とはいえ、これら不安要素の影にかくれてしまったが、第4四半期は新興国市場を除く多くの株式市場においてプラスとなる好調さであった。
第4四半期は、米国を除くグローバル株、米国小型株、カナダ株、新興国株、オーストラリア株のマネージャーにとって有利な市場環境だったが、米国大型株、欧州株、英国株、日本株およびロング/ショート戦略にとってはやや難しい環境だった。ファクターでは、低ボラティリティとクオリティが最もパフォーマンスが良好であった一方で、グロースファクターは多くの地域でアンダーパフォームし、バリューファクターについてはまちまちの結果となった。重要なこととしては、同四半期を通してパフォーマンスの成否のカギを握ったのは投資スタイルよりも、むしろ銘柄選択であったということだ。
情報技術、公益、素材といったセクターが、各地域において明らかに好調であった。一方で、コロナウイルスのパンデミック期間に恩恵を享受していた通信サービス、ヘルスケア、一般消費財といった成長率ないしはバリュエーションの高いセクターは、利益確定の動きや今後のインフレや利上げ観測に対する不透明感により、第4四半期におけるパフォーマンスは振るわなかった。
当社の第4四半期におけるサーベイ結果によると、各運用機関は概ね経済動向については楽観的ではあるものの、景気回復の度合いにおいてはより注意して見極めようとしているようだ。インフレが長期化する中で、各運用機関はよりバランスシートが健全で、価格決定力のある企業を選好する方向に向かっている。また各運用機関では、ベース効果の関係で、2022年において対前年比での収益改善という点では、2021年に比べて厳しいものになるだろうと見ている。
本レポートは、ラッセル・インベストメントが運用機関との間に築いた独自の関係を活用して、運用機関の専門的な見解を読みやすい形にまとめたものである。2021年第4四半期の世界の主要な株式市場と地域について、主な戦術的見通しを以下で紹介する。また、今回は特別に、ESG投資に関するセクションを冒頭に据え、当社の運用機関リサーチチームが今年のカギとして予測するトレンドについても紹介する。
2022年のESG トレンド
「スコープ3排出量」公表に注力
- 多くの企業において「スコープ3排出量」は、全排出量の65~90%を占めている。
- 今後必要とされるのは、世界的な環境変化が最終利益に及ぼす影響ではなく、世界中の各個別企業が世界の環境にどのぐらいの影響を及ぼしているのかを査定して公表する「根源的な透明性」だ。
グリーンディールへの民間投資
- 産業統計によると、複数の大型プライベート・エクイティ・グループが、再生可能エネルギーへの投資余力を有している。
- これは環境投資のポートフォリオが今後も増える可能性を示唆している。
- 民間資金は、気候変動対応技術への投資を見据えている。
- ラリー・フィンクは、民間企業の環境関連データの公表を押し進める中心人物である。
グリーンボンド
- 投資家が「何がグリーンに値するのか」により注視する中、グリーンボンド市場は今後も成長することになりそうだ。
炭素市場
- COP26以降、温室効果ガス排出制限のために、各国政府は現在のEUに加えて、新たに中国における炭素市場の利用に目を向けている。
- 炭素クレジットの価格は上昇してきているが、依然として大量排出を阻止できるほど十分な高値とはいえない。
環境保護についての説明責任
- 世界基準としては、気候関連財務情報開示タスクフォース (TCFD)の枠組みを、国際財務報告基準(IFRS)のみならず英国やEUの会計基準でもガイドラインとして採用することで固まりつつある。米国でも、証券取引委員会(SEC)が2022年後半にこれに加わるものと予想されている。
ESGの「S」への注力
- 新型コロナウイルスにより、労働や人権に関する事項への関心が高まりつつある。
オーストラリア株式
設備投資の変化でインフレ早期収束へ
- 設備投資額の中で、「柔軟な設備投資(ソフト・キャペックス)」が過半を占めるようになり、2021年半ばには全体の52%に達した。「ソフト・キャペックス」は、必要となる資材の調達が容易で、かつ供給量も限定されたものではないため、デマンド・プル型のインフレ圧力を招く効果は比較的低いとされている。同国では新型コロナ感染に伴う行動制限によって、モノに対する消費者の需要が一時的に高まり、デマンド・プル型のインフレが悪化することとなったが、この傾向は2022年半ばには消費者の行動が新型コロナ前の状況に戻ることにより解消されると見る者もあり、その者たちはITセクターへのオーバーウェイト姿勢への自信を深めている。
「カーボン・オフセット」による「グリーンウォッシング(欺瞞行為)」
- アナリスト達は、2大「カーボン・オフセットのための資金集め」の正当性について疑問を呈している。再生可能エネルギープロジェクト(「カーボン・オフセット」投資額の33%)は、そもそも再生可能エネルギーのコストが安く、「森林伐採の回避(こちらの方も、樹木はそのまま残るだけなのだが)」(同32%)も伴わないため、「オフセット」のための基金を募らずとも実行可能なのではないか、とのことだ。各運用機関は、企業が自身の排出する炭素のオフセットを行うことについても、またそのような行為が当該企業に与える影響についても、オフセット行為の受益者として、あるいは利用者として、この見解に対する一定の配慮を行っている。
カナダ株式
投資機会がより小型株に集中
- ベンチマークを構成する銘柄数がこの四半期中も増え続けており、1年でほぼ10%近く増える結果となった。
- 中位運用機関のサイズへのアクティブ・エクスポージャーは下落傾向にあり、彼らの興味がより時価総額の小さい企業に移りつつあることを示している。
- 小型株への興味は、バリュエーションが魅力的であること、建設的でESGへの積極的に関与する企業への投資機会となること、流動性が高いことといった部分に支えられている。
銀行にとっては良い環境
- 融資活動機会の増加、消費者からの手数料収入の回復、資本市場における吸収・合併等の増加、潤沢な現金ポジション、健全な配当利回り、魅力的な株価マルチプル-これら全てが、2022年の銀行にとって追い風になると言える。
配当額は前年比増の見込み
- 2021年の収益増加により、各企業の現金ポジションが増加したこと、(特にエネルギーセクターにおいて)株主寄りの自己資本配分がしやすくなったこと、配当金に対する規制が緩和されたこと-これら全てのサポート要因によって、増配の環境が整ってきている。
「新型コロナ」 + 「インフレ 」+「 利上げ」 =「 ボラティリティ」
- 新型コロナの影響がまだ不透明であることや、インフレや中央銀行によるテーパリング計画への見解が割れていることによって、今後の混乱、投資家によるいらだち紛れの無茶な投資行為、そしてボラティリティが過剰となる時期が来ることが予測される。
- 各運用機関は、2022年前半を通してボラティリティの高い時期が続き、これによってアクティブ運用(特に資本財セクターのような、種々雑多な銘柄を含む市場への投資)の好機が訪れると見ている。
新興国株式
中国経済回復へ、暗雲晴れる
- 経済の安定化・再加速促進政策によって流動性サポートへの保証が得られた結果、世界的なテーパリングの風潮の中で、一部の投資家が中国市場に戻ってきた。
- 昨年は脱炭素規制により工場による生産活動が停滞したが、これが緩和されたため、製造業回復への道筋がついた。
- 信用機関へのアクセス条件が緩和されたため、不動産デベロッパー各社のバランスシートがやや改善した。市場の安定に伴い、不動産市場は魅力あるものになると見られる。
- 中国のIT企業に対しては一旦熱がさめたものの、魅力的な成長見通しと、規制リスクが株価にも織り込まれたことを背景に投資家は徐々に戻り始めてきている。
- 新型コロナに伴う不透明感の中、中国の再生可能エネルギー、バッテリー化学、電気自動車(EV)関連産業は、引き続き政府支援策によって保護されている状況にある。
政治的リスクを回避する動き
- 投資家は、ウクライナ国境を巡って、米国が主導するNATO(北大西洋条約機構)との論戦白熱化に伴い、制裁リスクのあるロシアへのエクスポージャーを削減しつつある。
- 各運用機関は、選挙の時期が近いことから政治的なボラティリティに警戒しつつも、ブラジルに手を伸ばそうとしている。バリュエーション上魅力のある投資機会が回復していることと、通貨の割安感がその理由だ。
海の底から安値買い
- 大型輸送船やコンテナ船業界が、旺盛な需要とサプライチェーン上の制約による問題が長引く中で、恩恵を受けている。このような業界の動きは2022年を通して変わらないものと見られる。
- エネルギーセクターのような不人気分野が、やや割高なスポット価格や経済再開に伴う経済活動の活発化で支えられている魅力的な配当金により人気を集めている。
インフレ予測をアクティブにカバー
- 各投資家は、予想されている米国の利上げや、センチメントの悪化に伴うボラティリティの上昇を背景に、ハイグロースセグメントとディープバリューセグメントの両方を利食い売りしている。
- 新型コロナの感染による損失が大きかった娯楽産業や小売業においては、賃金インフレが拡大している。各運用機関は経済活動再開に伴うデフレ効果や、新興国市場における経済活動正常化による恩恵を受ける逆境に強い銘柄を重視するポジショニングをとりつつある。
欧州および英国株式
多様化するバリュー投資
- バリュー株の投資機会が、不振が続く旅行関連や自動車銘柄以外に広がっている。各運用機関は景気循環銘柄や銀行・保険会社のみでなく、ディフェンシブ銘柄といった分野も考慮しようとしている。
欧州: EPS (1株当たり利益) 予測、2022~23年も低調
- 市場全体の予想では、現在の企業収益の回復基調は長続きしないだろうと見ている。2022~2023年のEPS予測は、過去平均よりも低い水準のまま推移し、全般的なGDP(国内総生産)の成長予測にも劣後すると見ている。
欧州: インフレは今後も継続
- 原材料価格の急激な上昇については、企業による商品価格への転嫁が始まったばかりであり、物価上昇は2022年中も続くと見ている。サプライチェーン問題の継続と併せて、インフレ率が高水準で続く要因となり、シクリカル銘柄が恩恵を受けることになる。
英国: バリュー景気循環株
- 英国株のバリュエーションは引き続き魅力的な水準だ。各運用機関は、インフレかつ金利上昇局面でパフォーマンスの良いとされるバリュー景気循環株への配分を引き上げている。
英国: 環境テーマ
- 運用機関の中には、環境テーマを扱う企業に対するエクスポージャーを増やす者もある。これらの企業は国債金利の上昇、サプライチェーンの問題、急激な原材料コストの上昇により、2021年は厳しい環境にあったが、一部の運用機関は、これらの逆風は一過性なもので、現時点のバリュエーションは再投資に魅力的な水準であるとみて買い戻している。
グローバル株式
各運用機関は新年から警戒感
- 新型コロナの状況や予測はいまだに流動的で、これによって市場のボラティリティは高まっている。一方で、投資家はインフレに対する警戒感を強めており、企業利益は前年との比較において厳しい状況になりつつある。企業の利益率は現時点で高い状態(かつ、いくつかのケースにおいては持続不可能な水準)にある。
インフレ加速で、Fedが政策転換を急ぐ
- 米国連邦準備理事会(FRB)がタカ派的姿勢から、経済成長を阻害してしまう可能性がある。昨年、企業はコスト転嫁を進めて、利益率を拡大することができたが、今年は前年比成長率が鈍化と、コストの上昇によって昨年の傾向が逆転する可能性が高い。各運用機関はリスクを若干落とし固有の成長要因を持った銘柄を物色している。
投資スタイルではなく、銘柄選択が重要に
- 2021年の第4四半期は、ファクターによるパフォーマンスのトレンドは影を潜め、年間を通してファクターの明確な勝敗がつかない結果となった。第4四半期に投資家はクオリティや、低ボラティリティファクターに傾斜するようになり、今後の見通しに警戒感を示すようになった。ベンチマークに対してアウトパフォームした運用機関にとって、そのカギとなったものは、配分効果よりも銘柄選択であった。
- 高バリュエーション銘柄に対する調整が入ったものの、各運用機関は、市場は引き続き狭い範囲のものであったと実感している。バリュー株投資家は、引き続きバリュエーション上の格差と経済の回復傾向をバリュー株投資にとってポジティブな予兆ととらえているが、経済成長が緩やかになれば、バリュー株投資家のパフォーマンスも再度失速することになりかねない。
気候変動とエネルギーへのトレンドが生み出す複雑な投資機会
- 欧州の規制当局は、エネルギー転換において、天然ガスと原子力エネルギーをグリーンと銘打つという、現実的ではあるが議論の余地のあるアプローチをとる可能性がある。この動向は長期投資に対して大きな意味合いをもっている。
- 気候変動対策の目標は、社会経済的かつ地政学的な課題についての議論を呼んでいる。各国政府や投資家は、消費者を苦しめるエネルギー価格の高騰や、低炭素物質の発掘やエネルギー体系の開発に伴う環境への影響についての議論にも取り組まなければならない。
日本株式
Fedの政策引締めに注目
- 大きなインフレ圧力により、Fedが金融引締めを予想より早く始めるとの観測が広まる中、リスク選好度は減退しつつある。小型グロース株は、最もその影響を受けている。
- 多くの運用機関が、小型グロース株のバリュエーションが魅力的になりつつあるものの、金利上昇が予測より早まることを見越して、投資開始には時期尚早と見ている。バリュー運用機関は、金融引締めへの政策転換によって経済成長が減速する可能性を最も懸念している。
インフレ圧力の持続性に見解分かれる
- 運用機関の中には、CPI(消費者物価指数)上昇率が比較的高いのは、主に新型コロナウイルスによる供給不足が原因で、一過性なものと考えている者もいる。一方で、これは2010年代の設備投資不足、人口構成比上のトレンド、あるいはESG寄りの政策など、構造的な要因によるものだと考える運用機関も増えてきている。
- このような不透明な状況を踏まえ、マーケット・オリエンテッド運用やグロース運用を行う運用機関は、自らの投資対象範囲内でポートフォリオの分散を試みている。バリュー運用の運用機関は、これまでパフォーマンスの良かったバリュー景気循環株を減らし、ディフェンシブなバリュー株を増やしている。
経済再開遅延も準備万端
- オミクロン株の感染拡大により経済活動の再開が遅れる中で、各運用機関は概ね、感染は近いうちに収束するとの期待感から、経済活動再開の恩恵を受けるポジションを維持している。
- 経済活動再開関連銘柄へのエクスポージャーが少なかった運用機関は、小売業など恩恵を受けそうな銘柄に対し、バリュエーションが魅力的な状況下でエクスポージャーを増やそうとしている。
インフレ下と円相場への逆風
- 日本のコアCPIは、円相場の下落によって市場予測以上に上昇すると見る者もいる。彼らはその結果、将来の金利上昇で恩恵を受けると予想される金融セクターへの配分を維持している。
ロング/ショート戦略
デレバレッジ増加で様子見の展開
- ロング/ショート戦略での株式運用機関は、2021年はリスクオンで始まり、グロス、ネットともにエクスポージャーを高めに維持したままほぼ1年を過ごした。
- Fedがインフレに対する観測スタンスを変えたことに、オミクロン株による新たな不安材料が重なり、市場では大幅なデレバレッジと、ファクター・ローテーションが起こっている。
- 各運用機関はグロス・エクスポージャーを減らしてディフェンシブなポジションをとり、コンビクション(確信度)や資産保全に注力している。
ロング・アルファの不振続く(特に人気銘柄)
- ショート・アルファは2021年第1四半期以降素早く反発し、プラス圏で年末を迎えたが、ロング・アルファは不振だった。原因の一部は(市場全体の)グロースからバリューへのファクター・ローテーションにある。グロースとバリューのネット・エクスポージャーの差は、ここ5年以上なかった水準に縮小した。
- ロング・アルファのパフォーマンスはこの12月、単月としては2009年以降2番目に悪い結果となった。特に人気銘柄のロングは全ての地域(特に北米とアジア)でアンダーパフォームした。
カスタム・ショート・バスケット
- 各運用機関では、カスタム・ショート・バスケットを特定のセクターまたはファクターのヘッジとして利用する頻度が高まっている。
赤字または高バリュエーションのIT株から撤退
- 各運用機関はハイテク銘柄に対して、年間通して高い投資エクスポージャーを維持してきたが、ここへきて利益の上がっていない、または割高のハイテク株へのエクスポージャーを積極的に減らしつつある。(現在は最大1年半ぶりの低水準)2
リアル・アセット
不動産会社のM&A、2021年には増加
- 昨年、米国内で15件のM&A取引が成立。平均取引額は66億ドルで、21%のプレミアム。内容は公営企業の民営化を伴うものと、上場企業同士の合併に分かれる。
- 各運用機関は、今後もアパートセクターを中心に、さらなるM&Aがあるものと見ている。
不動産市場のトレンド
- オフィス用:スペースに対するニーズが不透明で、リース・売買ともに低迷。香港から撤退する企業の受け入れ先として、シンガポールは活況。
- 小売店舗用:2023年にかけて、屋外ショッピングセンターのリース面積が拡張。モールは低バリュエーションからの回復が顕著。
- 住宅用:米国において、人口過密を避けてサンベルト地帯や郊外へ移住する者が増えたことや、家賃上昇抑止策が発動したために、東西両海岸地域の市場が難局に。
- 産業用: eコマース主導のスペース需要が継続。
- 物件レベルのファンダメンタルズは引き続き改善。長期的な収入の成長率は平均以上の上昇が予想され、予想自体も上昇傾向。
- 経済の加速により金利上昇・インフレのリスクがあるものの、多くの不動産タイプへの需要増加も見込まれることから、家主による賃料の引き上げも可能な状況。
インフラ関連株、経済回復に遅れをとるも、投資妙味あり
- 国際的な株式に比べて、EBITDA(金利・税金・償却前利益)に対するマルチプルにおいて、インフラ関連株は割安。長期的な平均スプレッドが1.1倍なのに対して、現在は0.2倍となっている。
- 再生可能エネルギーの配備は加速しており、米国の公益事業を支えている。送電網の更新が、新たな投資テーマとなっている。
- データ量の増加に伴い、通信インフラが恩恵を受けている。
- 空港関連の回復は、2022年に加速すると見られる。エネルギーの中流企業は、需給バランスの不均衡やビジネスモデルの改善により、フリーキャッシュフローの増加が見込まれる。
米国大型株式
経済回復関連事業に楽観的見方
- 新型コロナ絡みの不況で苦しんだ消費者関連銘柄その他の業種に対して、明るい見通しが見られる。新型コロナのデルタ株やオミクロン株によって、消費者支出が後退、不安定となったため、再開関連銘柄は比較的バリュエーションが魅力的であり、収益の大きな上昇も見込まれている。
- 投資家は、需要の拡大によって旅行関連業種や自動車などに対する支出が増えるものと予測している。医療機器メーカーも、経済活動の活発化によって恩恵を受けるものと見られる。
インフレと価格転嫁力
- インフレ圧力が持続すると予想される中、各運用機関は価格転嫁力が高く、利益率を維持できる企業に引き続き注目している。
- このような環境下で、2015年の原油価格急落以降キャッシュフローと収益性を重視してきたエネルギー関連銘柄に対して、ポジティブな見方が広がっている。
銀行は先行き見通しに光明
- 各運用機関は銀行株に対して強気の見方を崩していない。利上げが予想される局面は、銀行にとっては利鞘による収益拡大の好機だからである。また、新型コロナ感染拡大の当初から、大手銀行はテクノロジーを駆使して、大幅なコスト削減に取り組んできている。
ソフトウェア株・インターネット株、前年対比で厳しい年に
- eコマースやサービス用ソフトウェア(SAAS)関連企業の力強い成長は、今後も持続するものと見られる。一方で、新型コロナ感染期の巣ごもり需要増加後、これらの企業は、投資家による利益予測を上回るのが困難な状況に直面している。
- 各運用機関は、ソフトウェアやインターネット関連企業に対してより選択的となり、多くの運用機関は成長サイクルの早期段階にある新興の中型株銘柄に注力しようとしている。
米国小型株式
小型株の見通し暗く、アクティブ運用の見通し明るい
- 各運用機関は、FRBによる緩和策が縮小するとの予測から、2022年の小型株の絶対的リターンに対して悲観的に見ている。重要なこととしては、小型株が4年続けて2桁のリターンを上げ続けたことはめったにないということだ。
- 小型株の運用機関は、歴史的にみて低リターン環境はアクティブ運用の好機と考えている。
エネルギーと銀行へのポジショニングは投資スタイルを問わず
- 金利上昇局面では、各運用機関は投資スタイル(小型グロース株を含む)を問わず、2022年も引き続きエネルギーと銀行にとって好環境と予測している。
インフレと小型株
- 投資家にとってインフレとオミクロン株が主要な懸念材料である中で、小型株運用機関は、小回りが利きやすいことから、規模の小さい企業の方が比較的うまくインフレ局面を乗り切れる場合が多いと見ている。
バリュー株運用機関、循環株の見極めに手腕
- バリュー運用の運用機関は、資本材や素材など、景気に対して早めに反応する循環株のバリュエーションは適正水準であり、これらの企業は収益面でもピークアウトに近いと見ている。
- バリュー運用の運用機関は、前年対比が容易な、旅行・娯楽、自動車、イベント運営、オフィス用家具会社等、景気回復に遅れて反応する循環株銘柄へのローテーションに入りつつある。
グロース株運用機関、ハイテク株の高バリュエーションを認識しつつも撤退潔しとせず。
- ハイテク銘柄のバリュエーションは、11月にピークを迎えた後も、引き続き過去の平均を上回っている。
- グロース運用の運用機関は、依然としてハイテク企業の強固なファンダメンタルの成長に注目しており、戦略的およびプライベート・エクイティによる企業統合が引き続きサポート材料になるものと考えている。
結論
各運用機関は、概ね2022年の経済成長見込みに対して楽観的ではあるものの、長期化するインフレや利上げ観測により、ここ数年よりも大きなリスク調整後リターンを獲得することは難しくなってくるものと見られる。そのような状況下で、運用機関のスペシャリストの見解は、新たな投資機会を認識し、市場の歪みを利用するに当たって重要なものと考える。本年も、当社では引き続き洞察をお届けする予定である。
1 出所:Refinitiv Lipper
2 出所:Morgan Stanley Prime Brokerageのデータより