2021年第4四半期(9-12月期)債券運用機関調査: 「一過性のインフレ」の持続

以下は、2021年11月23日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文は こちら。内容は作成時点のもので今後市場や経済の状況に応じて変わる可能性があります。また、当見解は将来の結果を保証するものではありません。

今回は、53の主要な債券・為替運用機関を対象に、今後数カ月間のバリュエーションや市場予測、今後の見通しについてどう考えているかを調査した。

前回(2021年第2四半期(4-6月期))の調査では、世界各地で驚異的な速さで経済回復が進んでいることがわかった。これによってインフレが大幅に進んだが、調査対象の運用機関は概ね、このインフレ水準は「一過性」のものと見ていた。連邦準備理事会(FRB)が2023年中の利上げを予測してトーンを変え始めたことを考えると、潜在的な金利上昇を予測した点において各運用機関の見方は正しかったといえる。FRBのトーンが変化し、調査参加者がインフレ高進を懸念している一方で、ほとんどの債券資産に対する各運用機関の見通しは比較的安定していた。ただし、高利回りのセグメントを選好する傾向があることは明らかだった。

その後、第3四半期(7-9月期)の最初の2か月間はポジティブなモメンタムが市場を支配していたが、9月に入って急激に風向きが変わった。さらなるインフレ懸念が四半期末まで長引き、主要中銀も大幅にタカ派色に傾かざるを得なくなったのだ。FRBは11月に資産購入プログラム縮小の開始を確認した。イングランド銀行(BOE)は11月の会合で、金利据え置きとなったが、利上げ決定までわずかな差となった。一方で、欧州中央銀行(ECB)はインフレ率の上昇を認識しつつも、資産購入額について「ややペースを下げる」との声明を出すにとどまった。同時に、新型コロナウイルスの「デルタ」変異株感染拡大、中国のいくつかの国内セクターに対する規制強化、同じく中国の不動産開発会社エバーグランデ(恒大集団)の債務危機といった問題により、ボラティリティが押し上げられ今後の成長に対する懸念が高まった。

これらを踏まえて、インフレの持続、金融政策の引き締め、リスク水準の上昇について、各運用機関の見方がどのように変化してきたかをつぶさに見ていきたい。

持続するインフレ

金利運用機関による見解

  • インフレ予測はより分散している。今後12カ月の米国のインフレ率を2.26%から2.75%の間と予想している運用機関は55%で、それよりも高い水準を予測した運用機関は20%にとどまった。約80%の運用機関が、今後5年間にわたり、インフレ率はFRBの目標値である2%を割ることはないと見ている。
  • 金利の上昇については、見方が変わってきている。本年第2四半期(4-6月期)の調査では、80%の運用機関が次の利上げは2023年以降になると予測していた。しかし今回は、半数がFRBは2022年下半期に利上げを行うと見ている。投資家はFRBが年内にテーパリングを開始(実際に11月から開始された)し、資産購入プログラムを6~9カ月で終了させるだろうと見ている。また、90%の運用機関が、最初の利上げ以降は毎年2~4回の利上げを見込んでいる。一方、ほとんど(75%)の投資家が、ECBは2023年より前にはテーパリングを行わないだろうと見ている。
  • 米国のイールドカーブの動きについては、見方はあまり一致していない。35%の運用機関は、今後12カ月間においてイールドカーブのベア・スティープ化を予測し、45%はベア・フラット化を予測している。このように、ネガティブな見通しにもかかわらず、投資家は、イールドカーブのどちら側に影響が大きく出るかについて、見解が分かれているようだ。
  • 42%の回答者が、今後12カ月間の米10年物国債利回りは1.61~2%の間で推移すると予測し、別の42%は2%以上で推移すると見ている。前回調査時では、72%の運用機関が米10年物国債利回りを1.80~2.20%と予測し、予測レンジは比較的狭い幅に収まっていたが、今回はこれが大きく広がった形だ。
  • 各運用機関は、FRBが状況をディスラプティブ(破壊的)と考えるには、米10年物国債利回りが2.25%程度になる必要があると考えている。この利回り水準については、本年第1四半期(1-3月期)の調査では1.90%、第2四半期(4-6月期)の調査では2.30%であった。

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Q3 2021 Fixed Income Survey

出所:ラッセル・インベストメント 2021年第4四半期(9-12月期)債券運用機関調査

IG(投資適格)クレジット運用機関の見方:センチメントは変わりつつあるのか

  • 前回調査結果とほぼ同様に、30%の回答者が、今後12カ月間にスプレッドは緩やかに拡大すると予測している(10~30ベーシスポイント[bps]程度)。 60%の回答者は、今後12カ月間を通しスプレッドはレンジ内で推移すると見ている。
  • 経済状況の回復と企業の収益性の改善を受けて、レバレッジは低下している。今回の調査では、企業が今後レバレッジを低下させると予測した投資家の割合が、本年第2四半期(4-6月期)の69%から52%に低下したことから、投資家はレバレッジ低下のペースが鈍化すると予想している
  • その一方で、現在のスプレッドがクレジットの質が低下する潜在的リスクを補っていると考える投資家の割合は減少した。とはいえ、現在のスプレッド水準とレバレッジ予想を勘案すれば注意が必要と考える投資家の割合も減少した。
  • リターンが最も魅力的な国・地域という点では、欧州(英国を除く)が米国を追い抜いた。新興国市場(EM)は、金利が米国と同水準になったことから、幾分モメンタムを回復した。英国は依然として他の地域に遅れをとっている。

グローバル・レバレッジド・クレジット:よりバランスの取れた見方へ

  • 前回調査とほぼ同様に、80%の運用機関が、今後12カ月間のスプレッドはレンジ内で推移すると予測した。残りの20%が緩やかな拡大を予測し、スプレッドが縮小すると予測した運用機関は無いことから、各運用機関は、弱気になるほどのカタリストはほとんど見当たらないもののバリュエーションは割高だと認識していることがわかる。
  • 一方で、各運用機関はファンダメンタルズに対しては前向きな見方を維持している。25%の運用機関が、企業のファンダメンタルズについて大きな改善を、60%がある程度の改善を予測している。結果として、デフォルト率の上昇はほとんど予測されておらず、95%の運用機関がデフォルト率をこれまでの長期平均である3%以下と見ている。前回調査時の78%から上昇した形だ。
  • 前回調査時にはレバレッジド・ローンが各運用機関に大人気の資産クラスだったが、今回は、CLOメザニン債や、ハイイールドEM債に並ばれた。
  • とはいえ、投資家が米国ハイイールド債のリターンに対する期待値を低下させたことは特筆すべきことである。今後12カ月間のリターンを4~5%と予測している投資家の割合は48%と、前回より13%減少した。一方で、0.5~3%と予測している投資家の割合は、前回より10%増加した。
  • 今後12カ月間にわたり、グローバル・ハイイールド市場にとって最も懸念される潜在的なリスクは、インフレ、金利上昇、中国の経済成長減速であると各運用機関は考えている。中国関連のリスクは、重要度において第3位にランクされている。これらは、エバーグランデなどの不動産開発会社の信用問題を背景とした経済成長の鈍化観測が影響したものと思われる。但し、レバレッジを活用している投資家のほとんどがこのセクターをオーバーウェイトしていなかったことは、注目に値する。
  • 「フォーリン・エンジェル(FA)債」に対する信頼度が高まった。多くのマネージャーはFA債をライジング・スター(投資適格に格上げされる非投資適格債)と考えている(本年第2四半期調査(4-6月期)では23%、第3四半期(7-9月期)調査では57%)。

世界各地のリスク

新興国市場:概して強気の見方が後退

  • 新興国市場現地通貨建て債券(LC EMD)においては、金利上昇、中国の経済成長、インフレに関する見通しにより、新興国市場FXの見通しへの懸念が広がりつつある。今後3年間に関してポジティブな見通しの割合は、前回の71%から62%に減少した。さらに、来年の予測リターンの加重平均は、5.6%から3.5%に下落し、調査開始以来で最低の水準となった。
  • 各運用機関が今後12カ月間で最もパフォーマンスの高い通貨になる予想しているのは、ロシアルーブル、ブラジルレアル、エジプトポンドだった。32%の運用機関が、今後1年間で最もパフォーマンスの低い通貨をトルコリラと予測している。現地通貨運用機関はリラに対する弱気の見方を維持しており、前回調査時同様30%以上の回答者が「最も魅力の乏しい通貨」と見ている。
  • 各運用機関はまた、ハードカレンシー建て新興国市場債券(HC EMD)に対する強気の見方も後退させている。今後12カ月間でHC EMDインデックスのスプレッドが縮小すると予測した運用機関は、2021年第2四半期(4-6月期)では33%だったが、今回調査ではたった29%だった。一方で、17%の運用機関がスプレッドは拡大すると予測している。今後12カ月間の予測リターンの加重平均は3.7%で、前回調査時とほぼ同水準ではあるが、過去平均を大きく下回っている。
  • 新興国市場と先進国市場の成長率の差が拡大:成長率の差は1~2%にとどまると予想した運用機関は、前回の調査では47%だったが、今回の調査では48%だった。尚、今後12カ月間の成長率の差が2~3%になると予想したのは40%で、前回調査時の31%から上昇した。
  • 今後12カ月間で最も高いリターンが期待できる国として運用機関が名前を挙げたのは、前回調査に引き続きエジプト、ウクライナ、メキシコだった。中国とフィリピンは、引き続き人気の低い国のトップ2となっている。
  • 各運用機関にとって、今後12カ月間におけるHC EMDのパフォーマンスの最も大きなリスク要因はFRBの政策であり、続いて米国債利回りの水準の変化である。

欧州 - 通貨

  • ユーロに対する期待度縮小: 63%が、米ドルがユーロに対して上昇し、現在のEUR/USD=1.16以下の水準となると予測している。前回調査時には約80%の運用機関がEUR/USDを1.21~1.30のレンジで推移すると見ていたことから、これは大きな変化であるといえる。

証券化商品

  • 証券化商品分野に対する信頼度は上昇: 証券化リスクを縮小させようとしている投資家の割合は低下し、同リスクの維持または拡大を図ろうとする投資家の割合は若干上昇した。
  • BBB格CLOの人気は、ここ3回の調査を通して堅調に高まり、今では証券化商品セグメントの中の「目玉商品」となっている。僅差でそれを追うのは、BBB-格付けの商業不動産担保証券(CMBS)だ。住宅ローン担保証券(RMBS)のエクスポージャーはやや減少し、選好度は低下している。
  • 50%の運用機関が、今後12カ月でノンエージェンシーのスプレッドがやや縮小すると見ている。さらに、31%の回答者がスプレッドはレンジ内で推移すると見ている。
  • 各運用機関は、CLO市場に対する懸念について、よりバランスのとれた見解を示した。69%が、主なリスクとして広範なリスクオフの市場センチメントを挙げ、次いで、原資産ローンの担保の信用低下を挙げた。

結論

インフレについては、これまで考えられていたよりも大きな不安材料となりつつあり、投資家も金利引き上げのタイミングが早まったと見ざるを得なくなった。FRBが2022年後半にも利上げを行うかどうかはまだわからないが、FRBは明確にその可能性があることを示唆しており、各運用機関はそのタイミングを見極めようとしている。

また、インフレ率の上昇は、前回調査よりも明らかにハイイールド債の分野におけるリスク要因となっている。しかし、「一過性」のインフレが予想よりも若干長期化する中、ECBが物価上昇に対する表現をよりトーンダウンさせていることで、各運用機関のEUのクレジットに対する選好度合いは今後も少しだけ米国を上回っていくことになるのだろうか?

新興国市場については、当然のことながらセンチメントは落ち着いてきたものの、中国の不動産開発会社の債務懸念は今のところ残っている。エバーグランデがデフォルトした場合の潜在的な落ち込みを、抑え込むことはできるのだろうか? これは現状誰にもわからない。

グローバル・サプライチェーンや労働力不足に関する問題も未解決であり、これによって経済成長の勢いも削がれている。これらの問題は第4四半期(10-12月期)に向かって、リスク・モメンタムを悪化させる可能性があるが、前回調査時でのインフレに対する見方と同様、サプライチェーンや労働力不足の問題は、一過性のものではなくより持続的なものとなる可能性があるのではないか。