確定給付年金制度管理業務の後継者育成戦略(米国)

以下は、2022年8月23日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文は こちら

正直なところ、確定給付年金(DB)は母体企業にとって急速に古い制度となっています。DBの管理には、組織の中心的な業務から大きく離れた分野の専門知識を要する場合が多いため、人材を継続的に確保する計画の立案は容易ではありません。特に、DBの管理業務を志望する新卒学生が少ないことは深刻な問題です。こうした状況を前提とした上で、DB管理業務の後継者育成リスクにはどのように対応すべきでしょうか?

私は以前、パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック社(PG&E)で基金の投資を担当する小規模なチームを率いていた経験があり(当時米国最大級のDBでした)、この問題の重要性についてよく理解しています。当時は財務部長が毎年1回やって来て、後継者育成計画の概要についてよく質問を受けました。その真意は、「あなたに万一のことがあったらこの仕事はいったい誰がやるのか?」ということです。

その質問に答えるのは容易ではありませんでした。すぐに仕事を引き継げる候補者として思い当たる人物はいつも非常に少なかったからです。しかし、誰かがそんな質問をしなければならないことも事実でした。母体企業が後継者育成計画を立てていないとすれば無責任と言われてもしかたがないからです。特に、DBは加入者だけでなく母体企業の利益にも大きな影響を与えるのですからなおさらです。

担当者に万一のことがあるかどうかはともかく、経営状態のよい母体企業にとって後継者育成計画は制度管理の重要な部分となります。以前から問題として認識されているのは社員の離職率ですが、近年は大量退職時代、人材難、失業率の低下といった問題も生じているため、DBの後継者育成計画に関する最善の方法は、様々な問題に十分配慮すること以外特効薬がありません。

DBの後継者育成計画はなぜ特別に難しいのか?

重要な職務の欠員を見越して緊急時計画を立案することは面倒で手間もかかりますが、DB管理業務の多くでは特に大変で困難な作業となります。その理由は次のとおりです。

  • DBのスタッフが非常に少ない。 自分の部下が2.5人しかいない場合、ナンバー2の人物が自分に代わって部署をうまく運営できる可能性は当然ながら小さくなります。それに、役目を終えつつあるような部署で働く小さなチームのメンバーが、有意義なキャリアパスを築くことは難しいでしょう。
  • DBには学習すべきことが多すぎる。投資は簡単ではありません。機関投資家としての投資は間違いなく難解で複雑です。その上、DBの年金数理人や会計担当者となるには職人芸を身に付けなければなりません。当然ながら、どんなに優秀な社員でも一人前になるには長い期間が必要です。本当のところ、略語を全部覚えるだけでも数年かかるのです。
  • 最高の後継者が見つかったとしても既に退職しているかもしれない。 たまたま自分のすぐそばの席に有望な後継者がいたとしても、その人物が転職を考えている可能性はあります。あるいは、業務内容が自分の知識と近い職場で、自分の経験を生かした仕事に就きたいと考えて既に退職した後かもしれません。私もそういう理由でPG&Eを退職したのです(転職を迷っている読者のためにあえて言いますが)。
  • 社外からDB業務に人材を採用するのは難しい。 経験豊富な人材を採用するには高待遇が必要となることもあります。どんな職位でも、優秀な人材を獲得しようとすれば待遇面で他社と競争しなければならないでしょう。また、多くのDBが活動の縮小に向かう中で、若い人材がDBの制度管理という仕事に直感的に惹きつけられることは少ないとも考えられます。
  • 組織の中でも競争しなければならない。 本当に有能なMBA人材を見つけようとすれば人事部は協力してくれるでしょう。でも、そんな人材を年金制度の管理に優先的に回してくれるでしょうか?しかも、その制度はこれから活動が縮小していくのに?たしかにその仕事は重要ですが、ほとんどの場合アセットオーナーは投資専門企業ではないのですから、組織にとって決定的に重要ではないと見なされることが多いのです。

確定給付制度と確定拠出制度では管理のあり方が異なる。スキルも異なる。

DBの管理を確定拠出年金(DC)制度下に移行しないのはなぜでしょうか?多くの組織が、DBの全部あるいはほとんどの部分についてDCへの移行を済ませています。貴社もそうであれば、その2種類の制度では管理のあり方が異なることをご存じでしょう。私が考える最大の違いは企業収益全体に与える影響です。DBの制度管理の実態は制度の資金収支の管理です。DCでは、定義上、資金は100%確保されています。バランスシートについて考える必要がありません。積立不足が企業の利益に影響を与えることもありません。当然、これによりストレスは大きく減少します。ただし、DB管理の後継者候補が財務管理に情熱を抱いているとしたら、そうした情熱の対象となる財務上の課題も消え去ることになります。

大事な話ですが、運営がうまくいっているDC制度は、今日の労働市場の状況下でも人材を誘致・確保できる貴重な部門です。しかし、DC制度は人事部門と投資部門がチームを組成して運営する傾向にあり、通常は人事部門が記録の維持管理を担当します。制度加入者からの苦情の電話に応対するのは人事部門の仕事です。その苦情が投資選択に関するものである場合は、苦情への配慮が資産運用の意思決定に影響をもたらす可能性があります。逆に言えば、DC制度では(ターゲット・デート・ファンドのグライド・パス選択を除けば)資産配分は加入者に任されているため、投資に関する問題を減らすことができるのです。

アウトソースCIO(OCIO)が理にかなった選択肢だと思える理由

結論からお話ししましょう。読者のみなさんがDBの後継者育成計画について(つまり、自分に万一のことがあった場合について)考えているなら、ある程度のアウトソーシングは検討した方がいいでしょう。その理由を、私の経験に基づいてお話しします。

PG&Eに在籍していた頃、私は孤島のような存在でした。電気やガスの専門家に周りを囲まれながら一人で投資を行っていたのです。電気・ガスの話になると私は初心者同然でしたが、DBの基金投資に関しては社内のどこに行ってもすぐに「最も有能な社員」として扱われました。個人的にはいい思いができたものの、組織にとってはリスクが大きかったと言わざるを得ません。そこには冗長性というものが全くありませんでした。

ラッセル・インベストメントでの私は、DCやDBを通じて個人の経済的な安定度を高めることを専門とする約1,400名の社員と共に働いています。私が退職しても、私と同様の対応ができる社員がほかにも1,399名くらいは待機しているわけです。まさに巨大な専門家集団です。これは、私が大きな人材資源を活用できるということだけでなく、年金制度の受益者も豊富な人材資源を活用できるということになります。

個人を雇用するよりも、OCIOを通じてチームを雇う方が、組織としての知識損失リスクを軽減できます。万一のことがあった場合に知識が失われるリスクは、すべてOCIOにより管理できます。これはセールストークではなく単純な事実です。ラッセル・インベストメントのような能力の高い企業は、意図的な冗長性、ビジネス・リスク管理、事業継続性チームを備えているため、アセットオーナーの後継者育成計画リスクは軽減されます。これは、企業が事業継続性リスクを、慎重に警戒しつつ目的別(例えばサイバーセキュリティ)に、マネージしていることと同様です。

後継者育成計画に関してOCIOがもたらすその他4つのメリット

  1. 必要な領域すべてにわたる専門的能力。私がPG&EでDB管理部門を運営していた当時、私の小規模なチームは、専門的能力が必要な分野の全てにおいて専門家にはなれませんでした。仮に私の顧客がOCIOを利用する場合、顧客はカスタマイズされた助言を受けることができ、リターンの向上とリスクの低減を実現しながらコスト管理が行えることになります。ただし、様々な細かいサブカテゴリについては検討が必要です(運用会社戦略、オーバーレイ運用、プライベート・マーケット、ESG等々)。
  2. 規模の経済。 OCIOは後継者育成リスクの低減に貢献するだけでなく、非常に大規模な投資に相乗りできる機会をも提供してくれます。ラッセル・インベストメントのようなコンサルティング・プロバイダーは、ほとんどすべての場合に、OCIOの顧客のコストを低減できます。なぜなら、それこそが私たちの仕事だからです。当社は、単一ではなく多数の年金制度を管理していることで集合的な力を有しており、それにより規模の経済を実現しています。したがって、顧客の皆様はより確実に目標を達成することが可能となり、同時にリスク管理の改善と後継者育成リスクの軽減を少ない費用で実現できるのです。
  3. 「すべてか無か」の決定ではない。 社内調達とアウトソーシングは「すべてか無か」ではなく、選び方には濃淡があります。OCIOの優れたプロバイダーは顧客に合わせてサービスを提供します。例えば、運用機関との契約に最大のリスクがあると考える顧客の場合は、その部分を当社のような業者に外注する一方で、運用機関の選定については社内で行うという形をとることができます。また、アウトソーシングの一つの方法として、気になって眠れないほどの大きなリスクに着目し、それだけを外注するというやり方もあります。後継者育成に関する具体例では、当社が協力しているある企業の最高投資責任者は、キャリアの終わりが近づいたことに伴い、リスク管理だけを外注化して退職に備えようとしています。このようにして、まずは一つのアサイメントを通してOCIOを試し、その後、アウトソーシングの見通しや計画に沿って、先に進めていくことができるのです。
  4. アウトソーシングは価値のある選択肢を増やす。 後継者育成について2つのシナリオを考えてみましょう。1つ目の選択肢は、新しく社内スタッフに変更を加えることです。方法としては、社外から採用し社内育成していくか、下位のメンバーを昇進させて上級のDB管理業務に就かせるかのどちらかがあります。2つ目の選択肢は、OCIOのプロバイダーに外注することです。ここで、何らかの理由により結果に満足できなかった場合を想像してみてください。解雇と組織変更を行った上で再度、採用と人材配置を行うことにより、社内スタッフの問題を白紙に戻す方が簡単でしょうか?それとも、OCIOの別のプロバイダーに乗り換える方が簡単でしょうか?

外注先の選定は慎重に

OCIOのプロバイダーを活用することで、別の種類の後継者育成計画リスクは存在するでしょうか?答えはイエスです。そのリスクは「キーパーソン・リスク」と呼ばれています。これはキーパーソン、つまり、OCIOのプロバイダーに在籍する社員のうち後継者育成計画の成否に最も大きな影響を与える人物に関するリスクです。その人物が退職した場合、計画に対する悪影響はどの程度の大きさになるでしょうか?そのプロバイダーとの関係は、その一人の人物にどの程度左右されるでしょうか?

キーパーソン・リスクを軽減するには、「スターマネージャー問題」を引き起こさないプロバイダーの選定が重要になります。ポートフォリオ・マネージャーと顧客担当役員の在職年数を尋ねてみましょう。また、そのプロバイダーがチームアプローチにより顧客対応を行っていることを確認してください。賢明な買い手となるには顧客満足度と年数について質問することが必要です。

結論

DB制度管理の後継者育成計画はどのように立案すればいいでしょうか?上級財務リーダーは、後継者育成計画の選択肢としてOCIOを真剣に評価することが望まれます。ただし、実際の行動を始める前に、OCIOについてもう少し学んでみましょう。最強の投資家は知識を身に付けた投資家です。