トランプ米大統領の「タフ・ラブ(厳しいが必要な措置)」関税をどう理解するか

以下は、2025年4月3日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら

2025年第1四半期の米国株式は低迷しました。政策の不確実性が一段と高まり、一部のメガキャップ株が急反転したことが重なり、相場に大きな打撃を与えました。こうした不安定な市場環境の中で、投資家の間では2025年4月2日、いわゆる「解放の日」が注目されていました。この日は、トランプ米大統領の政策が市場に影響を及ぼす重要な転換点となる可能性があったためです。

関税政策の動向

2025年4月2日、ホワイトハウスのローズガーデンで発表された声明は、大胆な政策の一環として、米国の主要な貿易相手国に対し、大規模な相互関税を課す内容となりました。具体的には、以下の措置が含まれています。

  • 2025年4月5日から適用される新たな10%の基礎関税(多数の貿易相手国が対象)
  • その数日後には、各国が米国に課している関税および非関税障壁の半分の水準まで関税を引き上げる措置

この結果、実効関税率の平均は約14%上昇すると予想されており、これは歴史的に見ても大幅な関税引き上げとなります。

ここで重要なポイントが2つあります。1つ目は相互関税には交渉の余地があることです。例えば、ベトナムのような大規模な輸出国は、すでに米国製品への関税を全面撤廃すると表明しています。2つ目は一部の免除措置により、この相互関税はトランプ米大統領が以前導入した業界別の関税(鉄鋼、アルミニウム、自動車など)とは異なる性質を持つ点です。これは、業界別の関税はより恒久的な措置となる可能性が高いことを示唆しています。


 Paul Eitelman, CFA

"実効関税率の平均は約14%上昇すると予想されており、これは歴史的に見ても大幅な関税引き上げとなります。"

Paul Eitelman, CFA
Senior Director, Chief Investment Strategist
Russell Investments


経済成長への影響

トランプ政権はこれまでにも、中国、カナダ、メキシコからの輸入品や、鉄鋼、アルミニウム、自動車・自動車部品に対する関税を導入し、貿易政策を予想以上に強硬に進めてきました。これらの政策は長期的には国内製造業の支援につながる可能性があるものの、実質GDP成長率を0.5~0.75%押し下げ、コアPCEインフレ率を0.75%押し上げると試算されていました。

今回発表された相互関税は、実質GDP成長率をさらに0.75%押し下げ、コアPCEインフレ率を追加で1%押し上げる可能性があります。この影響により、2025年の米国の成長率見通しは1%以下となる可能性が高まり、コアインフレ率は3.5%を超える水準に達すると予想されます。
その結果、ラッセル・インベストメントは2025年の米国景気後退リスクの見通しを、これまでの30%から35~40%に引き上げました。

 
成長の鈍化?
2025年のGDPに対する関税の影響については、さまざまな試算が示されています。
Tariff GDP estimates 
出典: ラッセル・インベストメント、「The Fiscal, Economic, and Distributional Effects of a 20% Broad Tariff」(The Budget Lab, 2025)および「How Will Trump's Universal and China Tariffs Impact the Economy?」(Tax Foundation, 2024)に基づくモデル推計の調整版。今回の試算では、米国の実効関税率が14ポイント上昇することを前提としています。

 

悲観的ではあるが、パニックには至っていない

米国市場は火曜日(2025年4月1日)の取引中、ややリスクオンの姿勢を見せていました。しかし、トランプ米大統領の発表を受け流れが一転し、S&P 500指数先物は終値から3%以上下落し、10年物国債利回りも0.05%低下しました。

ラッセル・インベストメントでは、この極端に予測困難な政策の時期にも、引き続き分散型ポートフォリオ戦略の維持に注力していきます。また、市場の心理指標を注意深く監視し、市場の混乱リスクを見極める方針です。現時点では、米国株式市場に悲観的なムードが広がっているものの、極端なパニック水準には至っていません。

なお、米国10年物国債利回りは4.1%と、私たちの想定する適正水準に沿った動きを示しています。