市場は米国の対カナダ・メキシコ輸入関税に備えて急落
以下は、2025年3月4日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら。
エグゼクティブ・サマリー:
- 月曜日、ドナルド・トランプ米大統領がカナダおよびメキシコから米国への輸入品に対して3月4日より25%の関税を課すことを確認したことを受け、株式市場は急落しました。
- 当社の試算では、この関税により消費者物価が75ベーシスポイント上昇する可能性があります。ただし、これが米国経済を景気後退に陥れるほどの影響を与えるとは考えていません。
- 依然として、米連邦準備制度理事会(FRB)は年内に2~3回の利下げを行う可能性があると見ています。
- 当社の市場センチメント指標は2023年以来、最も悲観的な水準にあります。しかし、長期投資家は規律を保ち、自身の戦略的プランに従うことで恩恵を受けると考えています。
月曜日の市場は売りが先行し、米国のハイテク株のモメンタム調整が進む中、トランプ大統領がカナダ、メキシコ、中国に対する新たな関税を3月4日から実施すると発表したことが相場を一段と押し下げました。リスク回避の動きは資産クラス全体に広がりました。
- S&P 500指数は1.8%下落し、2月中旬の直近高値から約4.5%の下げ幅となりました。
- 米10年物国債利回りは7ベーシスポイント低下し、1月中旬からの低下幅は60ベーシスポイントを超えました。
- 日本円は上昇した一方、カナダドルとメキシコペソは下落しました。
特にカナダとメキシコに対する措置は市場にとってサプライズであり、多くの投資家は土壇場での合意や延期の可能性を見込んでいました。この状況は、貿易政策に対する不透明感が依然として非常に高いことを示しています。新たな関税が持続するのか、またどの程度の期間継続するのかは不確定要素が多い状況です。
経済への影響
関税は単純に輸入品に対する課税であり、経済成長を抑制し、対象商品の価格を一時的に押し上げる効果があります。
カナダ、メキシコ、中国は米国にとって最大の貿易相手国であり、今回の関税が継続すれば、実質GDP成長率が約75ベーシスポイント押し下げられるとともに、コアPCE(個人消費支出)インフレ率を同程度押し上げると試算しています。ただし、関税の影響は経済全体に均一に及ぶわけではなく、一般消費者裁量財(自動車など)、資本財や素材(木材など)セクターが最も影響を受けやすいと考えています。一方、金融セクターやREITは比較的影響を受けにくいと見ています。
結論として、今回の関税が米国経済を景気後退に追い込むほどの影響を与えるとは考えていませんが、マクロ経済の見通しには大きな影響を及ぼす可能性があります。
FRBの対応
関税は経済成長(ハト派的要因)とインフレ(タカ派的要因)の双方に影響を与えるため、中央銀行にとって政策決定を一層複雑にします。ラッセル・インベストメントは、基調的なインフレが目標水準に近づくにつれ、FRBが2025年に段階的な利下げを行うと予想していました。今回の関税による成長鈍化とインフレ上昇の組み合わせを考慮しても、この見方に大きな変更はありません。実際、FRBは2019年にも中国との貿易摩擦や世界経済の減速を背景に利下げを行っています。
市場見通し
ラッセル・インベストメントの運用戦略は、政策の不確実性が高い環境において、分散投資、リスク管理、銘柄選定を重視する方針を維持しています。債券市場では、1月中旬時点では米国債のバリュエーションは魅力的と評価していましたが、現在では適正価格に近づいていると考えています。例えば、当社の米10年物国債の適正利回り予測は4.1%であり、2025年には2~3回の利下げを予想しており、これは市場の現行価格に織り込まれています。
株式市場では、超大型株の売りと貿易摩擦が当社独自の市場心理指標を2023年以来の悲観的な水準に押し下げました。ただし、投資家のパニックが極端な水準に達しているわけではなく、ラッセル・インベストメントのポートフォリオにおいてリスクを積極的に取る判断には至っていません。それでも、こうした水準では、長期投資家は市場に留まり、戦略的プランを堅持することでリターンを得ることが多いと考えています。ラッセル・インベストメントのアクティブ運用チームは、相対的なバリュエーションの魅力が高く、ワシントンD.C.における一部の政策変更の恩恵を受ける可能性がある金融セクターなどの分野で引き続き投資機会を見出しています。