10x10レポート
パート2: リターン追求のための投資手法
低リターンの投資環境において、運用機関やアセットオーナーはどのような対応を取っているでしょうか? 低金利にはどのように対処するのでしょうか? プライベート・マーケットやオルタナティブ投資は、ポートフォリオにおいてどの程度の役割が期待されているでしょうか? 手数料の低下圧力は、運用機関やアセットオーナーに対してどのような影響を及ぼしているでしょうか?
10x10レポートについて
2021年第3四半期、ラッセル・インベストメントは毎年恒例の「パートナー・イノベーション・ラボ」を開催し、さまざまな地域の有力アセットオーナーによる重大な懸念事項や関心のある分野に関するブレインストーミングを行いました。ラッセル・インベストメントは、参加企業や団体、さらにはパートナーである運用機関へのインタビューをCerulli Associatesに依頼し、本イベントで議論されたトピックについて各自の見解を伺いました。その結果は、「気候変動投資」「リターン追求のための投資手法」「ダイバーシティ&インクルージョン」という3部構成のシリーズにまとめられています。
機関投資家の参加者には、以下の企業年金スポンサーが含まれています(アルファベット順):The Boeing Company、Fujitsu Global、Mazda Motor Corporation、Microsoft、Mitsubishi Electric、Nestlé、Roche、Unilever。 また、以下の非営利投資家も含まれています:The New York Presbyterian Hospital、Robert Wood Johnson Foundation、Thomas Jefferson University。
オルタナティブ資産運用機関の参加者には、以下が含まれています:Brevan Howard、Hamilton Lane、Oaktree Capital Management。 債券運用機関の参加者には、以下が含まれています:BlueBay Asset Management、Western Asset Management Company。 マルチ・アセット・クラス運用機関の参加者には、以下が含まれています:BlackRock、J.P. Morgan Asset Management、Morgan Stanley、Putnam Investments、Wellington Management。
リターン追求上の問題
多くの投資家が良好なパフォーマンスを計上した2021年度が終わり、アセットオーナーも運用機関も、今後は低リターン環境が続くことになると予測しています。低リターンの見通しに関連する問題に加えて、各運用機関は手数料が低下する環境にどう対応するのかを模索しなければなりません。具体的には、コスト削減を図らなければならないということです。
世界最大規模のアセットオーナーや運用機関の一部も、今後のリターン環境、プライベート・マーケット投資に対する見通し、手数料圧縮については、同様の見解を持っています。Cerulli Associatesの調査によると、アセットオーナーと運用機関の見解は、リターンが下落する傾向にあるものの、プライベート・マーケット投資ではある程度リターン目標を維持できるという点で概ね一致しています。今回の「10x10」参加者の多くは、プライベート投資も今後の低リターン環境とは無縁ではない、と指摘しています。これらを踏まえて、伝統的なプライベート・エクイティに投資している投資家の多くは、ポートフォリオをプライベート投資の既存とは異なるセクター(グロース、ベンチャー・キャピタル、プライベート債券など)に広げることも検討しています。
今後のリターン環境
多くのアセットオーナーや運用機関は、2022年以降リターンが低下すると予測しています。大多数が、各国中央銀行が、市場を押し上げるための政策手段を既に使い果たしていると考えているからです。
現在の見通しに合わせて既にリターン目標を下げたと、Cerulli Associatesに述べた参加者もいました。ある運用機関は、Cerulli Associatesに、多くのクライアントが資金流入・流出(必要掛金や給付る)の関係でリターン目標を急に変更できないため、10年かけて徐々に下げてきたと述べています。この運用機関によれば、毎年25~50ベーシスポイントずつ、リターン目標を下げていくクライアントが多い、とのことです。
プライベート・マーケット
リスク分散の範囲を広げでリターン目標を高めたいのであれば、プライベート・マーケット(特にプライベート債券)が注目すべき分野です。既にプライベート投資に進出している投資家は、従来型のプライベート・エクイティ(例えばレバレッジド・バイアウト)から、グロースやベンチャー・キャピタルに手を広げようとしています。
非流動性は、プライベート・マーケット投資の際立った特徴です。非流動性はプレミアムの源泉であるとよく言われますが、参加しているアセットオーナーや運用機関は、これが唯一の源泉というわけではないと述べています。例えば、資産クラスから派生するプレミアムとしては、「コンプレクシティ(複雑性)・プレミアム」や「アクセス・プレミアム」などがあり、前者は投資がどのように管理されるか、後者は投資案件をどのように呼び集められるかが影響します。複数の「10x10」参加者が、「非流動性」には、リターンの「平準化効果」(予測し難いセンチメント上の変化から投資家を切り離し、掛金に大きな増減が生じるリスクから守る)などの他のメリットもあると指摘しています。
手数料の低下圧力
運用機関は、リターン低下に加えて、利鞘低下の環境も乗り切らなければなりません。交渉力が引き続き投資家の方へシフトしつつある中で、運用機関は手数料の低下圧力や、サービス水準の向上期待に直面することになります。競争力を維持するためには、多くの運用機関が質の高いクライアント・サービス能力を活用し、従来のマンデートの範囲に収まらないアドバイスの提供を試みています。コスト抑制の共通の手法は、業務の合理化やクライアント・サービス提供の効率性向上に向けてのテクノロジー活用です。「10x10」参加者によると、これまで手数料に関する圧力とは無縁だったプライベート投資会社にさえ、数年のうちにはその影響が及び始める可能性があります。また、これらの企業はクライアント・サービスに関する期待度の高まりについても、同様のトレンドの影響を受けています。