プライベート・マーケット・アウトルック:急速な激化

以下は、2024年1月30日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら。内容は作成時点のもので今後市場や経済の状況に応じて変わる可能性があります。また、当見解は将来の結果を保証するものではありません。

概要:

  • 今日、プライベート・マーケットで取り組まれているものは特殊なものではありませんが、歴史的なものです。違いは破壊的なものではなく、そのスピードとグローバル性です。
  • 2020年以前の世界には戻れないことを認めつつ、戦略的な手法をもち断固としたコミットメントを持つ運用会社に資金を提供する体制を整えた投資家は、成功を収めることが可能です。
  • 戦略的には、この新しい世界では、プライベート・マーケットにおけるアクティブ・オーナーシップ、セミ・リキッド・ビークルにおける取引戦略、グローバルなマルチアセットによるレラティブ・バリューからの洞察の価値が、大いに高まるでしょう。
  • 投資家は、新たな成長モデルの原動力となっている長期的かつ一般的な課題(気候変動、パンデミック、インクルージョン、経済危機など)を認識するとともに、こうした成長を加速するのに必要なリソースのプールや所在に対する認識も非常に高めていく必要があります。

2024年以降も、引き続き、投資家は急速な変化に直面するでしょう。変化が課題を生むこともありますが、プライベート・エクイティ、ベンチャー・キャピタル、実物資産(不動産やインフラなど)、プライベート・クレジット戦略を通じて、アクセスできる機会も多く見られるでしょう。

その結果として、2020年以前の世界には戻れないことを認めつつ、戦略的な手法をもち断固としたコミットメントを持つ運用会社に資金を提供する体制を整えた投資家は、成功を収めることが可能です。1


どのようなトレンドがプライベート・マーケットに影響を与えているのでしょうか?

今日、プライベート・マーケットで取り組まれているものは特殊なものではありませんが、歴史的なものです。違いは、破壊的要素が遍在することではなく、そのスピードとグローバル性です。この変化のスピードに対応するには、真に長期的な考え方と、戦略的・戦術的な投資環境の両方を形成する相互に関連した力を活用する体系的な能力が必要であるとラッセル・インベストメントは考えています。

こうした力学は、1950年代半ばの米国の短編映画『The Future is Now』と比較することで垣間見ることができます。同映画では、政府の研究所に潜入し、産業オートメーションから新しい形の発電まで、急速な変化に社会がどのように対応しているかを紹介しています。この映画で、人間とテクノロジーとの関わり方における新たな革命に関するイメージが強く表現され、生産性の急上昇と意図された業界をはるかに超えた技術の使用例が初めて紹介されています。それから約70年が経ち、人工知能(AI)、合成生物学、量子コンピューター、エネルギー転換など、あらゆる分野で進歩が加速しています。2その多くは、特に成長の初期段階では、プライベート・マーケットを通して資金を調達し、アクセスすることになります。

このような状況において、様々な投資シナリオや投資機会を生かすことができる頑強なアセットオーナーや投資家は、受益者の経済的安定を確保する上で、より有利な立場に立つことができるでしょう。

非流動性への貯蓄主体者の対応能力:金融システム全体の流動性が低下するシナリオでは、非流動性を抱え込む時間及び能力の両方の優位性は明らかに高まります。しかし、人口構成、従属人口比率、給付制度のシフト(DCのような従業員主導型制度、負債主導型投資、年金リスク移転等)などの要因が重なり、貯蓄主体の非流動性を引き受ける能力が低下しています。本アウトルックの範囲外ではあるものの、この状況に対応するため、より革新的で構造的に健全な解決策が考案されています。その間までに、セルサイドの期待、負債の満期、リースの更新、延長オプションの期限切れ、政治的機能不全など、こうした非流動性を抱え込める優位性を損なうものは、戦術的なチャンスとなります。


"「長期的な計画(と投資)を立てない限り、人としても企業としても潜在能力を発揮することはできない」"

ジェフ・ベゾス、
AMAZONとBLUE ORIGINの創設者


新しい成長モデルと政治経済学:20世紀半ばと比較すると投資家は、新たな成長モデルの原動力となっている長期的かつ一般的な課題(気候変動、パンデミック、インクルージョン、経済危機など)を認識するとともに、こうした成長を加速するのに必要なリソースがどの程度、そしてどこに存在するのかについても強く認識しておく必要があります。

同時に、政治が経済を牽引する期間が継続しており、経済が政治を牽引するのとは逆の流れが見られます。米国では、商務省の影響力の高まりを見れば、この主張は裏付けられます。議会の予算計上プロセスや再契約のリスクに大きく影響される長期的なビジネスを構築することは困難ですが、政府が「提供者」と見なされるよりも真の「パートナー」として見なされるような法的な枠組みへのマインドセットへの転換が、今後起こる可能性が十分にあります。いずれにせよ、何に、どこで、どのようにプロジェクトに資金を提供するかという点で、こうした変化は戦略策定にとって非常に重要であると当社はみています。政策が何を構築するかを判断し、それに適応する能力に優れたゼネラル・パートナー(「GP」)は、成功すると考えられます。

結局のところ、特に明白に政治化された雰囲気の中では、投資主導の譲れない受益者重視のアプローチを持つ信頼できる運用会社を持つことが、これまで以上に重要になるでしょう。


人口動態、従属人口比率、給付制度のシフトなど、さまざまな要因が重なり、貯蓄者の非流動性を抱え込む能力が低下しています。


協力と競争:投資家は、世界が共有する課題への協力を切実に必要とする歴史的な時期の中で、長期的な戦略を確立する必要があります。現実には、互換性のないシステムがグローバルに発展しており、それが景気循環のボラティリティを長期的に高めると考えています。さらに、将来のビジネスやサービス(そして成長)が、デジタル、エネルギー、コンピューターの計算能力を基盤として構築されるのであれば、様々なイデオロギー・政治形態・国家安全保障問題は、その前進を妨げるだけでしょう。これと並行して、過去30年以上にわたって設置された製造および加工能力の数兆ドルを代替または再編成する取り組みが進行中であり、生産(地)を消費(地)に実質的に近づけています。文明が前世紀のほとんどの産業ワークフローを協調して「再構築」し、脱炭素化しようとする一方で、こうした力が働いています。

成長マインドセットは、あらゆる課題をチャンスとみなします。協力と競争という課題に取り組むのは容易ではないものの、その利益はとてつもなく大きく、プライベート・マーケットがソリューションとなり得ます。

インフレの衝動:以前の2019と2021のアウトルックでは、企業活動を推進する主要なテーマが、最も安いところで生産し、最も高いところで販売すること(すなわちグローバリゼーション)であり、外部性をほとんど考慮しない世界では、高成長と低インフレを達成することがはるかに容易であることを強調しました。現在、私たちはこうしたトレンドの逆転を経験しており、わずかではありながらも、成長とインフレの同時の発生を引き起こす可能性があります。


世界が共有する課題をめぐって協力することが切実に求められている一方で、相容れないグローバル・システムが発展してきており、それが景気循環のボラティリティを長期的に高めると思われます。


欧米諸国政府は協調して、現代の産業政策、社会保障制度改革、国防支出に取り組むといったぶつかり合うニーズと相まって、大幅な赤字に目を向けるでしょう。世界的な紛争や、既存の紛争の地域的拡大も、各国に大きな犠牲を強いる可能性があります。政府は資金調達市場をますます締め上げており、理論的には金利上昇もすべてインフレに転嫁されるとも考えられます。

このようなインフレの底流は、銀行システムの安定性に対する規制当局の関心の高まりとともに、過去の景気循環で経験したよりもはるかに引き締まった金融情勢につながる可能性が高いのです。このようなプレッシャーの中、資金ニーズに対応するため、より常識的な「政府一体」で官民セクターによるソリューションが登場すると予想されます。

「リスク回避」と国際化:「リスク回避」や「脱グローバル化」といったトレンドとは無関係に、ほとんどのプライベート・マーケット戦略はローカル・マーケットの領域であるため、当社は国際化するチャンスだと考えています。例えば、より強力な「スイング(どちらにも揺れる)」国(その多くは中所得国)が台頭し、この新しい世界における成長と資本フローを吸収する地位を築き、能力を蓄えていくでしょう。新しい形の国際協力、革新的な資金調達スキーム、多国間開発機関(IMF、世界銀行など)の改革の可能性などとともに、このようなことが起きるか、少なくともその試みが行われると見ています。

従来のプライベート・マーケット市場や東アジアから、インド太平洋、中南米、中東、アフリカといった地域の持続可能な成長に資金を供給しようとする資本のシフトが、特に政府の支援と並行して進むと予想するのは自然なことです。

これらの地域は、歴史的にみて、世界全体のディール活動の5-10%に満たないため、わずかなシフトでも有意義であることがわかります。また、パブリック・ブロックチェーンやプライベート・ブロックチェーンのネットワークなど、将来的な技術間の相互運用性を構築する取り組みも活発に行われており、世界中のプライベート・アセットの移転や決済に大きな影響を与える可能性があります。3

ALTERNATE

 

出所:World Bank 世界開発指数 2021年12月末時点

政治はいたるところに存在する:2024年末までには、この10年の残りの大半で、公共政策、つまりチャンスとリスクの両方が値踏みされ始めるでしょう。今年は台湾の選挙で幕を開け、6月にはEU議会選挙、11月にはアメリカ選挙が続きます。AI規制から現代の産業政策の行方に至るまで、投資戦略に関連するほとんどの要因が絡み合い、企業活動にとって不透明な環境を作り出しています。

この道のりでは、官民を問わず、世界の投資家は不安定な金融政策、税制改正、輸出規制、制裁措置、関税、投資審査、さらに独占禁止法の監視強化を乗り切る必要があります。ASEAN諸国に利益をもたらすと考えられる米国の技術規制などでこれ以外にも多くの例が存在します。4 輸出主導型経済である欧州連合(「EU」)の中国の電子自動車(「EV」)産業戦略への対応は、世界中に波及し始めるでしょう。また、米国の連邦取引委員会(FTC)や英国の競争・市場庁(CMA)による、より大規模なプライベート・エクイティ取引や「ロールアップ」戦略に対する独占禁止法上の監視強化は、企業活動にも影響を与えるでしょう。

金融政策については、中央銀行が独立していた時代は5終わりに近づいているかどうかわかりませんが、「中央銀行のプット」を排除し、「より高い金利をより長く」、そして市況を織り込んだ戦略を展開することは6合理的です。目先の中央銀行の利下げは新興国経済を緩和する可能性がある一方、下方調整局面は、上場市場の投資家が入手できない成長を取り込むための、より良い投資タイミングとなる可能性があります。ラテンアメリカがその例です。メキシコはサプライチェーン再構築から大きな利益を享受するでしょう。しかし、資金調達の多くは中国の余剰資金を再利用するもので、この性格は今後数年で変化し、機関投資家のプライベート・キャピタルに取って代わられるものと思われます。

このような力学は、国内およびクロスボーダーでの適切な投資判断につながる相互連関の力について詳しく理解しているゼネラル・パートナー(「GP」)の価値を高めるだけであると当社は見ています。


法の支配を支持し、製造業とエネルギー・トランジションを支える最も安価でクリーンな電力を生産するための許認可改革を進めている国々は、投資を呼び込むでしょう。


エネルギー・トランジションと対をなすエネルギー安全保障:良い話題としては、科学技術の進歩が挙げられます。その進歩により、最も重要な新しい代替材料、化合物、生産技術の発見と商業化が見込まれています。AIやその他の新興技術をはじめ、これらは手頃なエネルギーを必要とします。その大半は化石燃料を使用することに変わりはないものの、石炭火力である必要はないという認識が広まっています。原材料を加工するために世界中に輸送することは多量の炭素を必要とし、サプライチェーンの複雑さを増すことになります。そのため、商業的に利用可能な再生可能エネルギー源のほとんどは、サプライチェーンの混乱や化石燃料に支えられた製造原料の影響を受けやすいハードウェア、資材、重要鉱物に大きくさらされています。

これによって、エネルギー・トランジションにはエネルギー安全保障が不可欠であることが浮き彫りになりました。法の支配を支持し、効果的なESG特性を持ち、製造業とエネルギー・トランジションを支える最も安価でクリーンな電力を生産するための許認可改革を進める国は、投資を呼び込むでしょう。長期的には、アンモニア、水素、核融合、小型モジュール原子力、宇宙太陽光発電による輸送施設と発電所開発を支援するための国際的な連合が増えれば、官民で連携した投資の機会がさらに増えるでしょう。

サイバー・レジリエンス:永遠のテーマであり、極めて重要なニーズは、サイバー・レジリエンスです。2024年には歴史的な数の総選挙/議会選挙が行われ、地政学的緊張が高まることから、サイバー・セキュリティと国家安全保障が最重要課題となります。サイバー・レジリエンスに対する需要と資金援助は、今後ますます拡大し、進化していくでしょう。資金援助については、「量子時代の準備」はより可視化され、より多くの注目と投資活動が徐々に引き寄せられ、特に、2024年に米国で発表される「量子攻撃への耐性を持つアルゴリズム」の標準規格は、遅くとも2030年までに本格的な企業導入が予定されています。

2024年以降のプライベート・マーケットについてはどうでしょうか?

重要なことは、勝者と敗者の差が大きくなり、運用会社選定によるリターン格差は、すべての戦略で広がるということです。戦略的な観点からは、変革が進むこの新しい世界で、プライベート・マーケットにおけるアクティブ・オーナーシップ、セミ・リキッド・ビークルにおけるトレーディング戦略、そしてグローバルなマルチアセットからのレラティブ・バリューによる洞察をセットにした際に生じる価値は、有意義に増していくでしょう。

戦術的な領域では、投資先企業の売却活動は2024年以降の金利動向に大きく左右されるでしょう。市場の大半は中央銀行主導の「ソフトランディング」または「ハードランディング」シナリオに注目するでしょうが、外部からのショックあるいは経済学者が外生的要因と呼ぶものが、経済を順調な軌道から外すリスクとして中央銀行による要因と同等かそれ以上であると当社は見ています。例えば、スエズ運河やバブ・エル・マンデブ海峡など、重要な海運の要衝をめぐる紛争によって、初期の予兆はすでに現れています。ここでの出来事やその他の海事関連の事件は、在庫の状況や耐久消費財のインフレに重大な影響を与える可能性があります。米国内でも、東部およびメキシコ湾岸の港湾労働者の現行契約がちょうど連邦選挙や州選挙が行われる前の2024年10月に満了を迎えるため、労働者からの圧力が表面化し、一時的な影響を及ぼす可能性があります。

したがって、個人消費が好調かどうかにかかわらず、より柔軟でオポチュニスティックな/ソリューション志向の戦略への大きな配分は、依然としてとても合理的です。また、(ヘッジファンドではない)スポンサーが提供するトレーディング戦略も復活しており、企業価値に対して有利な見方ができる立ち位置を活かしたセミ・リキッド・ビークルが市場に出回り、ボラティリティを戦術的に取り入れる方法が増えています。


重要なことは、勝者と敗者の差が大きくなり、運用会社選定によるリターン格差は、すべての戦略で広がるということです。


戦略毎のビュー

積極的に成果を出すために、購入・株主権の活用・価値創造に焦点を当てた長期戦略としてプライベート・インベストメントを捉えるべきだと当社は考えています。2023年のアウトルックで強調したように、 金利が低く維持され、金融工学(例えば、配当リキャップなど)が許容されたことは、資本所有者にとっては有利な環境でしたが、今後のサイクルでは高い成長率を実現するために、これまでとは異なる戦術が要求されるでしょう。繰り返しになりますが、将来に備えて資産を増強し、弾力性を高め、2020年代の後半に要求されるものを構築し続けるためには、設備投資と開発力の増強が必要となります。プライベート・マーケットはニーズに応えることができます。しかし、長期的に供給がより制約される環境では、M&A活動や統合、または「ロールアップ」戦略が必ずしも新たな供給力を生み出すとは限りません。このような戦略はまた、経済の各所で所有権のもたらす恩恵を分かりやすく集中させてしまいうることにつながります。これらの事項を念頭に置いた上で、プライベート・キャピタルへの投資に関する議論を進めるために、主要資産クラス別の所見を以下に記載しました。

ベンチャー・キャピタル:ベンチャー投資家は、引き続き、各領域をリードするテクノロジーおよびライフサイエンス企業への参入機会や改善された参入条件を、特に創業初期段階で発見し、後期段階でも選択的に見つけるでしょう。また、特にフィンテック分野では、中所得国全体でベンチャー資金が拡大し続けると見ています。

2022年と2023年の「SaaSacre」7を受けて、売上の安定性と技術の耐久性への期待は既に見直しを迫られました。同時に、あらゆる企業や業界団体が、自分たちにとってAIが何を意味するのかを考えています。そのため、IT予算は拡大しないかもしれませんが、方向が転換されることが予想され、有力な上場同業他社以外の収益成長へのエクスポージャーを提供することになります。

2023年に目立った成長企業は、コンピューターの計算能力(Nvidia、データセンター、ハイパースケーラーなど)に関与しているハードウェア関連でした。わかりやすく儲けることができるアプリケーション層やソフトウェア開発における永続的なビジネスは、まだ確定していません。データにおけるこれらの新しい使用用途に対してソフトウェア設計を簡単にできる人もいれば、非常に難しい人もいるでしょう。これはチャンスです。当社のパートナーは、企業向け(「コンピューター生産性の高いプロセスとと生成AIを整合させ、それが消費者向け(「B2C」)に拡張されることで、収益とバリュエーションの拡大がもたらされると見ています。

今後、資金調達市場が逼迫することで、当資産クラスへコミットする長期的投資家にとっては、世界で最も賢明な運用会社や起業家と提携する機会が増えると予想されます。これから起こる技術的な変化が複雑であることを考えると、投資家は、明確な後継者育成計画とともに、競合優位性に焦点を当てつつ資金力のあるビジネスを展開し、投資家と高度に利益を合致させた運用会社に賭けることに集中する必要があります。

プライベート・エクイティ:プライベート・エクイティでは、工業化への回帰、エネルギー・トランジション、サプライチェーンの堅牢性の確保、政府と民間部門が交差する戦略、そして食品関連のバリューチェーンが引き続き魅力があるテーマと考えます。資本市場が減速すれば、公開企業の非公開化や分社化に伴う資金調達など、プライベート・マーケット戦略全般にわたって機会が増えるでしょう。M&Aや企業活動が停滞しているシナリオでは、PEスポンサー間の活動、または業界でよく「セカンダリー・バイアウト」と呼ばれるものが活発化する可能性があります。つまり、私たちが「PEのバリューチェーン」と呼ぶものの中で、ポートフォリオがどこに位置するかは、今後の数年の投資でより重要になると思われます。

コントロール・エクイティ戦略(バイアウト取引など)については、高金利が長く持続すると従来のバイアウトの手法の重荷となり、期待リターンを低下させ、今後事業再編の需要をもたらします。バイアウトの取引量を左右する2つの要素(資金調達コストとバリュエーションの改善)が流動的な中、ライフル射撃のようなアプローチをとり、重要な分野に知見を持つ特化系運用会社は、勝ち残るための強い立場になるでしょう。プライベート・マーケット投資全体に占めるバイアウト戦略の割合は、世界金融危機(「GFC」)時には50%を超えていましたが、今日では35%以下まで低下しており、幅広い投資機会とマルチ戦略によるプライベート・マーケット投資のメリットを反映したものであることは注目に値します。


個人消費が好調かどうかにかかわらず、より柔軟でオポチュニスティックな/ソリューション志向の戦略への大きな配分は、依然としてとても合理的です。


不動産:パンデミックの発生から3年が経過し、不動産投資や様々な不動産開発は、投資家にとって久々に戦略的に有望な期間を迎えています。発展途上国や先進国のローカル市場のユニークな特性は、債務・銀行のバランスシート・不動産の老朽化・製造業の国内回帰・セクター固有の変化に責任を持って対処すべき状況を生み出しています。短期的には、2024年以降も、既存のポートフォリオにおける資金調達と物件の運営管理についての課題のバランスを取ることが中心的な重点分野となるでしょう。主な例外国である中国を除くすべての国に機会があります。

最近の金融緩和にもかかわらず、短期的なカタリストが集中しているプライベート・ポートフォリオは試されています。商業用不動産の価値はまだ底を打っておらず、買い手と売り手の間での取引不成立は、債務の満期の到来とともに一部は解消されるでしょう。例えば、欧州の不動産市場の価格は米国よりもはるかに早く調整されていますが、価格は依然として低迷し、与信状況は厳しいため、オポチュニスティックなリターンが得られる可能性があります。欧州の不動産市場では比較的銀行の存在感が強いため、実質的な商業用不動産担保証券(CMBS)市場は存在しません。銀行がさらに業務を縮小し、レバレッジが低下した場合でも、欧州の不動産エクイティは局所的に下落する可能性があり、豊富な投資待機資金を持つ者にチャンスをもたらします。

米国内では、キャップレートと10年物国債のスプレッドは歴史的な低水準にあり、取引量が回復するためには当面のハト派的な金利政策に依存する向きが多くなっています。しかし、銀行の与信は引き締まり、オフィス以外の市場全体では底堅いリーシング市場のファンダメンタルズとインカム収入の伸びとが相まって、ディストレスト債やオポチュニスティックCMBS戦略などをはじめとする不動産デット・ソリューションのメリットが生まれるでしょう。

インフラストラクチャー:インフラ投資に主眼を置いたプライベート戦略におけるキャッシュフローの大部分はインフレ率と連動しており、長期的な視野に立つ投資家は引き続きこの特徴を重視するでしょう。データの安全性に関するテーマ(モバイル、IoT、AI、クラウドを介したトラフィックの長期的な増加)、防衛的手段としてのエネルギー・トランジション(グローバルな政策上の優先課題)、運輸のイノベーション(輸送手段は変革を迫られるが、なくなりはしない)など、特定のカテゴリーではプライベート資産投資が引き続き必要とされています。これらの分野では、恒常的に品質の向上や供給拡大の必要性があり、借入コストが上昇すれば政府も企業も財政面での解決に取り組もうとします。

エネルギー・トランジションについては、この投資テーマは、プライベート・キャピタルの投資先として最も重要な長期的分野の一つだと言えます。世界の産業と石油化学製品の基礎原料であるエネルギーは、すべての経済セクターと世界全地域に影響を及ぼします。しかし、化石燃料を大規模に置き換えうる立場にある国は、米国を含む数カ国に過ぎません。オーストラリアも、その内の一つです。先に述べたように、このような環境は、エネルギー・トランジションとエネルギー安全保障を合わせた、より現実的な議論が必要になっています。各国が今後、より安定的で、願わくはよりクリーンなエネルギー調達を実現するための取り組みを加速化する上で、より現実的なアプローチを採用する気運が高まるだろうと予測しています。

プライベート・クレジット:フリー・キャッシュ・フロー(FCFF)にアクセスするための先頭列にいることは、依然として魅力があります。プライベート・クレジット市場の多くは変動金利であるため、基準金利の上昇は貸し手がより多くのキャッシュフローを吸収し続けることを意味します。ノンバンクの貸出市場における高い資金提供量と競争は、このサイクルにおける取引量の下支えをもたらしていることを示唆していますが、より高い利払いコストを通じて直接ローンを組成するプレイヤーに利益をもたらしています。

前年と同じビューが引き続き続くものの、資産のキャッシュフローに裏打ちされたローンの組成に重点を置いた戦略(例:資産担保型)は、より広範な企業の営業利益やEBITDAに裏打ちされた戦略(例:キャッシュフロー型の貸出)と同等か、それ以上に魅力的です。融資条件の引き締めと銀行の統合により、ノンスポンサー融資においても組成機会は維持されるでしょう。特に、製造能力を拡大し、重要な鉄道車両についての費用を確保するための資金需要が増加しているためです。現在は、貸出残高の少数派を占めますが、今後普及する可能性のあるNAVファイナンスなど、特定の戦略の手法や新しく創造された資金提供力に警戒感を抱いています。逆に、割安な公募証券とダイレクト・オリジネーションとの間で相対的価値を切り替えられるオポチュニスティック・クレジット戦略の投資妙味は、引き続き高いものとなっていきます。

2023年に大規模な銀行破綻が発生し、また選挙の年でもあることから、ノンバンクの融資市場の規模に対する懸念や、規制当局の監視強化を求める声はより大きくなるでしょう。プライベート・クレジットの資金調達の多くが、要求払いの預金を裏付けとするレバレッジのかかった銀行のバランスシートとは対照的に、解約が制限された資金を持つレバレッジのかかっていないバランスシートを経由していることを評価するべきです。8しかし、現在の形でのプライベート・クレジット市場は、長期にわたる債務不履行にが続く環境によりテストされたことはありません。加えて、同市場が税制改革の見通し、特に債務発行と株式発行をめぐるインセンティブに影響を与えるような改革に苦慮しても不思議ではありません。

その結果、運用会社選定の価値および戦略的意思決定によるアウトパフォームの可能性は、ここから高まっていきます。

セカンダリー:現在の市場での投資待機資金の量を考えれば、私募ファンドや資産の「流通市場」は、投資家により良い価格設定で流動性を提供することが可能になります。既存の投資家にとって、あまり戦略的でない古い投資を選択的に売却することは、特に柔軟性を高め、新たなコミットメントのための資金を創出するために、依然として有意義です。金利の歴史的な変動に加え、ALMや年金リスク移転のためにプライベート・マーケットのポートフォリオがより計画的に売却されるようになれば、特に実物資産に買いの機会が訪れる可能性もあります

注目すべきは、GP主導の継続ビークルの急速な広がりにより、スポンサーが個々のアセットをスピンアウトして新たな長期の投資先とすることが可能になるともにインセンティブに関する条件がリセットされることです。これは引き続きチャンスであり、細心の注意を払うべき分野です。GP主導による継続取引の市場は、世界金融危機(GFC)脱却後のプライベート・エクイティの流通市場全体に匹敵する規模です。GP主導型の取引活動が活発化することで、特に「PEファンドの満期という壁」が迫っている場合は、レガシー・ポートフォリオで、成長のドライバーが空洞化する可能性があります。9極端な例ですが、これは二番手または三番手の市場におけるBランク資産での価値創造を狙うショッピングモール投資家に類似しているかもしれません。特に稼働率が低く、レバレッジコストが高い場合、大幅な割引価格であってもこれは容易ではありません。「Jカーブ」を消すためだけに無差別にセカンダリーを利用する投資家は10いくつかの課題に直面する可能性があります。

まとめ

2024年以降も、引き続き、アセットオーナーや投資家は、急速な技術の進歩、地政学的な変化、そしてしばしば不安定な市場環境によって形作られるダイナミックな状況に直面するでしょう。さまざまなシナリオに備え、相互に関連し合う市場の力に敏感であり、長期的に信頼できる運用会社パートナーとともに複雑な情勢を進む上で、うまく舵取りができる者は、受益者の繁栄を支援する立場にあるだけでなく、未来へ向けた資金の提供に有意義に貢献することができるでしょう。金融は成長の重要な手段であるため、この舵取りを正しく行うことが不可欠です。さあ、それを目指していきましょう。

 


1 決断力とは定義上、素早く自信を持って決断すること。理論的には、組織が大きく官僚的であればあるほど、迅速な意思決定は難しくなる。不確実性が高まるにつれ、確信度の高い長期的な決断を下すことは難しくなる。最近、メディアに登場したジェフ・ベゾスは「決断力」が企業全体の将来の成功の重要な原動力であると指摘した。彼は決断を2つのタイプ、一方通行と双方向のドアに分類している。一方通行の決断は結果的なものであり、覆すことは難しく、計画的になされるべきである。双方向ドアの決断は覆せる可能性があるため、高度な技術を持つ個人か少人数のグループによって迅速に行われるべきである。

2 ここに関連する傾向を詳述した価値ある論考は、ムスタファ・スレイマンの近著である、来るべき波に解説されている。

3 例えば、世界銀行間金融決済協会(「SWIFT」)は2023年、既存のスウィフト・インフラを利用して、世界中のパブリック・ブロックチェーンやプライベート・ブロックチェーンと相互運用可能にすることを模索する計画を発表した。

4 東南アジア諸国連合(「ASEAN」) 加盟国10カ国の集合体で、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムが最も影響力がある。https://en.wikipedia.org/wiki/ASEAN

5 中央銀行の独立性(「CBI」):中央銀行が金融政策を実施し、金融システムを管理するために有する政治的影響からの自律性と自由度。この概念は、中央銀行は短期的な政治的思惑に邪魔されることなく、自由に金融政策を決定すべきであるという核心的な考え方から、20世紀後半に生まれた。https://en.wikipedia.org/wiki/Central_bank_independence

6 「中央銀行のプット」とは、中央銀行が民間部門から資産の買い取りを申し出ることで、資産価格の実質的な下限を設定するものであり、売り手が損失を共有する義務はない。「中央銀行のプット」は、金融当局が不安定な金融市場を落ち着かせるために使えるツールのひとつである。「プット」は、それが信用を失墜させない、通貨価値を崩壊させない(すなわち、悪化させない)限り有効である。https://en.wikipedia.org/wiki/Central_bank_put

7 「SaaSacre」のクレジットはBessemer Venturesにある。

8 あまり目立たないが具現化してきている領域が、プライベート・エクイティ所有の保険会社に対する規制当局の監視と、プライベート・クレジットの配分が保険金支払能力に与える影響である。2022年に採用されたAG53を参照。さらに重要なこととして、米国の金融安定タスクフォースとそのマクロプルーデンス・ワーキンググループは、プライベート・エクイティ所有の保険会社に対する規制、保険における資産運用会社の役割、保険会社のポートフォリオにおけるプライベート投資の増加などを積極的に精査している。

9 2013年から2018年以降の年にローンチされたファンドがその満期を迎え、ポートフォリオの未実現価値が増加し続ければ、GPはますます多くのソリューションを求めるようになるだろう。

10 Jカーブとは、投資先企業や資産の買収に関連する初期費用やその他の費用が発生するため、クローズド・エンド型ファンドの初期に発生する可能性のある負のキャッシュフローを示すコンセプトである。ファンドの資産価値が増すにつれ、キャッシュフローと基準価額(「NAV」)は改善する。「Jカーブ」は、クローズド・エンド型ファンドのキャッシュフロー推移をグラフ化した時に「J」の形に似ていることに由来する