確定給付年金制度におけるオルタナティブ投資の活用

 

以下は、2021年8月24日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を元に抄訳したものです。原文はこちら。内容は英文記事作成時点のもので今後市場や経済の状況に応じて変わる可能性があります。また、当見解は将来の結果を保証するものではありません

 

オルタナティブ投資は年金ポートフォリオの中で存在感を増しています。また、確定給付(DB)年金制度のスポンサーは、年金制度運営における重要な課題(給付に対する積立、積立水準のボラティリティ低減、ポートフォリオ全体のリスク分散など)に対処する上で、オルタナティブ投資を活用する場合が増えています。

ただし、オルタナティブ投資は万能の解決策ではありません。効果的なオルタナティブ投資戦略は、積立水準、債務の性質、流動性のニーズ、リスク/リターンの目標、投資信念など、多くの要素によって決まります。本稿では、さまざまなオルタナティブ投資戦略の基本的な特性、DB年金制度における役割を解説し、それらの有効な投資機会について考えてみたいと思います。

各種オルタナティブ投資の特徴

プライベート・キャピタル

プライベート・キャピタルは、非上場企業の株式や債券への投資全般を意味する用語です(プライベート・エクイティ、プライベート・デット、私募不動産などを含みます)。

プライベート・エクイティのユニバースには、企業ライフサイクルの段階に応じたさまざまなカテゴリーがあります(ベンチャー・キャピタル、グロース・エクイティ、バイアウト、ディストレストなど)。プライベート・クレジットについても、企業(営業活動からのキャッシュ・フロー)や資産(不動産などの実物資産からのキャッシュ・フロー)に対する幅広い投資機会が存在します。

多くの場合、プライベート・エクイティでは投資期間約10年、プライベート・デットでは5~8年のクローズド・エンド型のビークルを利用して、プライベート・キャピタル投資を行います。なお、プライベート市場ファンドのキャッシュ・フローのパターンを勘案すると、ファンドの運用終了まで資金回収を待つ必要がないことについては、よく理解しておくことが重要です。なぜなら、ポートフォリオの対象企業が売却された、あるいはローンが完済されたなど、投資収益が実現した際には、分配金が自然に生じて来るからです。

DB年金制度のポートフォリオにプライベート・キャピタルを加える投資戦略の事例としては、公開市場よりも高いリターンを目指す場合や、ポートフォリオ全体のボラティリティを下げたい場合などが挙げられます。例えば、2020年9月30日までの20年間に、プライベート・エクイティの年換算リターンはS&P 500指数を350ベーシスポイント上回りました1

ヘッジファンド

ヘッジファンドにはさまざまな投資戦略のカテゴリーがあり、運用機関のスキルや専門知識を活用することで投資リターンを生み出すと期待されています(例:エクイティ・ヘッジ、イベント・ドリブン、レラティブ・バリュー、タクティカル・トレーディング)。重要な点は、ヘッジファンドでは伝統的な株式・債券投資よりも幅広い投資テクニックが使われるということです(空売り、レバレッジ、ヘッジによる市場リスクのアクティブな管理など)。

ヘッジファンド投資ビークルの解約に要する期間は、投資戦略によって異なります。エクイティ・ヘッジなどの流動性の高い戦略では、30日前までに通知すれば四半期ごとに解約できる場合があります。イベント・ドリブンのような比較的長期の戦略では、90日前までに通知すれば1年ごとに解約できる場合があります。

リターン向上を目指すポートフォリオでは株式ベータが主なリスク要因であることを考慮すると、ヘッジファンドの導入には複数のメリットがあります。例えば、全般的な市場動向の影響を受けない(少なくとも相関が低い)リターンが期待できます。下げ相場でも資産価値を維持し、長期的に絶対リターンをもたらす可能性があることから、ヘッジファンドは積立水準のボラティリティを下げる重要な手段になり得ます。

私募不動産

コア型の私募不動産の特徴は、信用力の高いテナントに貸し出されている都市部の高品質物件です。物件のタイプとしては、物流/倉庫等、オフィス、集合住宅、小売、トランクルーム、一戸建住宅、シニア向け住宅などがあります。

商用不動産からのリターンを下支えする要素は、主に2つあります。まず、不動産リース契約の家賃収入から得られる、債券のような安定したインカム利回りで、これが期待リターン全体の約70~80%を占めます。もう1つはキャピタル・ゲインで、キャッシュ・フローの伸びや物件価値の上昇に連動します。

コア型の私募不動産ファンドは多くの場合、四半期単位で換金できます。他の資産クラスの実績と比較すると、これまでの不動産のリスク調整後リターンは優秀といえます。長期的には、コア型の私募不動産の期待リターンは、上場株式と債券の中間程度になると予想されています。コア型の私募不動産をDB年金制度に加える理由は複数挙げられます。例えば、利益追求型の資産クラスよりもボラティリティが低い、リスクを分散できる、確実なインカムが得られるなどです。



課題と問題

年金スポンサーは、制度上の約束を果たす(つまり加入者への給付を行う)に当たって、数々の課題や問題に直面します。例えば以下のようなものです。

成長

最終的には、給付は掛金や投資リターンによって賄われなければなりません。掛金が得られない場合には、必要に応じて年金資産を成長させて、現在(そして将来)の加入者に支払うべき給付の財源を確保する必要があります。金利が毎年下がり続けているため年金債務は増加していくと予想されますが、年金資産は給付支払いによって減少し、リターンを生み出せる資産の額は減っていきます。凍結された年金制度以外は、毎年新たに発生する給付が債務に追加されていきます。また、その他のDB関連の要因(年金運営上の費用や年金資産から支払われるサービス・プロバイダーへの報酬など)により、リターン向上の必要性がさらに高まります。

オルタナティブ投資の追加による影響

オルタナティブ投資をポートフォリオに加える場合、年金スポンサーは、主な評価基準(ポートフォリオ全体の期待リターン、サープラス・ボラティリティ、掛金など)にどのような影響が出るのかを理解しておくことが重要です。以下では、異なる状況にある2つの年金制度においてオルタナティブ投資を追加することによる影響を解説します。

事例1 – 凍結された年金制度(年金資産額5.11億ドル)

凍結(新規加入者はなく、既存の加入者に対しても毎年新たに給付債務が発生しない)された年金制度を考えてみます。こうした制度の最終的な目標は、積立水準100%を達成し、その積立水準を維持すべく資産配分を進化させていくことです。現段階の積立水準は90%強だが、最終的に運用リスクを徐々に引下げていきたいのであれば積立水準105%が必要となります。年金スポンサーは、追加的に掛金拠出することなく積立水準を改善させることを望み、将来の流動性への影響を考慮した上で、資産の5%をプライベート市場に振り向けることとしました。プライベート市場の追加によってポートフォリオの効率性が向上し、サープラス・ボラティリティが9.4%から8.7%に低下、掛金を合計430万ドル(現在価値)抑制しました。また期間10年の最悪シナリオに伴う掛金を730万ドル抑制しました。(2020年12月末時点)

事例2 – 新規の給付が発生する閉鎖型年金(年金資産総額1.8億ドル)

既存加入者に対して新たに給付債務は発生するものの、新規加入はできない年金制度を考えてみます。制度は継続しているため、勤務費用を賄うため収益の増強が必要となります。積立水準が約64%の場合、この不足分を解消するためにもリターンを重視する必要があります。最終的に、年金スポンサーは資産の5%をコア型の私募不動産とヘッジファンドに振り向けることによって、リターン向上を狙いました。オルタナティブ投資の追加によって、サープラス・ボラティリティは10.2%から8.3%に低下し、期間10年の最悪シナリオに伴う掛金を620万ドル抑制しました。(2020年12月末時点)

結論

年金スポンサーは、制度上の約束を果たす上で数々の課題に直面しています(年金債務を賄うためにリターンを稼ぐ、積立水準を改善または維持する、そして、広範な分散投資によって株価下落のリスクを軽減するなど)。そして、ますます資産配分にオルタナティブ投資を利用しようとしています。

最終的には、DB年金制度ごとに状況が異なるため、万能の解決策は存在しません。しかし、年金スポンサーが今後の投資成果を向上させるために、さまざまなオルタナティブ投資を検討することは有益であるとラッセル・インベストメントは考えています。

本稿において記載されている数値、データ等は過去の実績であり、将来の投資収益等の示唆あるいは保証をするものではありません。


1 出所:McKinsey & Company「McKinsey Global Private Markets Review 2021」