マーケット・エモーション(投資家心理)のサイクルを理解する — 変動の激しい市場でも冷静にいるために

状況が良いときには、何もかもが上手くいくような気がします。一方で、市場環境が悪化すると、私たちは思い切った行動をとりたくなります。

こうした感情の揺れは、投資家にとって資産の健全性を損なうリスクにもなり得るため、自分自身の状態に気づくことが重要です。 この気づきがあれば、衝動的で非合理的な行動に走ることを避け、冷静な判断を維持することができます。

市場のサイクルが存在するように、私たちの感情にも一定のリズムや変動があります。こうした感情のサイクルを理解することは、理性的な投資判断を支える上で欠かせません。

cycle of emotions
上記はイメージ図であり、現実を忠実に反映したものとは限りません。
出所:ラッセル・インベストメント

ステージ1:楽観、興奮、そして陶酔感(ユーフォリア)

投資家は皆、楽観的な気持ちからスタートします。投資によってリターンが得られるだろう、リスクを取るからには報われるはずだ、と期待するのが一般的です。 期待通りにリターンが得られると、さらなる利益の可能性に興奮を覚えるようになります。そしてそのリターンが期待を超えると、その興奮にゾクゾクするようになります。 サイクルの頂点にあるのが、陶酔感(ユーフォリア)です。

しかしこの時こそ、投資家にとって最も資産のリスクが高い局面なのです。 自分の判断は常に正しく、市場にも打ち勝てる、自分がすることのすべてがうまくいく—そんな思い込みが生まれやすいのもこの時期です。そして、過剰なリターンが当然のように感じられ、必要以上のリスクも受け入れてしまう傾向があります。

ステージ2:油断、否認、そして希望

サイクルの第2段階は、市場が高すぎる期待に応えなくなり、転換を始めたときに訪れます。 当初は、不安を感じながらも市場の動向を見守ります。やがてその不安は現実を受け入れたくない気持ち(否認)へと変わり、さらに投資価値の下落が続くと、恐怖へと発展します。

多くの投資家はこの段階で防御的な行動を取り始めます。リスク資産から撤退し、より安全な銘柄や債券など、他の資産への移行を検討するようになります。 それでもどこかに「回復してほしい」という希望を抱き、判断が曖昧になるのもこの局面の特徴です。

ステージ3:パニック、投げ売り、絶望感

サイクルの第3段階では、ベア・マーケット(下落相場)の現実がはっきりと表れ、投資家は追い詰められた気持ちになります。 多くの人はパニックに陥り、市場から完全に撤退してしまいます—これ以上損失を出すことへの恐怖からです。 なんとか投資を続けている人も、次第に絶望感に襲われ、「市場は本当に回復するのだろうか」「自分はここに居続けるべきなのか」と悩むようになります。 しかし皮肉なことに、こうした局面こそが最大の投資機会であることに、ほとんどの投資家は気づけません。

ステージ4:懐疑心、慎重さ、そして不安

サイクルの第4段階では、市場が回復し始めると、投資家は懐疑的な気持ちを抱くことがあります。 市場の上昇が続くのかどうか、不安を感じながら、慎重に様子を見ることが一般的です。 そのため、価格がまだ比較的安く、魅力的な投資機会があるにもかかわらず、市場にお金を投資することに躊躇することがあります。

この感情的なジェットコースターの結果とは?

感情は理性的な投資家を非合理的な投資家に変えてしまいます。そのため、市場は常に変動し、投資先も時期によって人気が出たり、なくなったりすることを忘れないことが大切です。

資産別の年間リターンの推移

Diversification map
各資産の年間リターンは以下の指数を用いて算出しています。日本株式:TOPIX(配当込み)、外国株式:MSCI KOKUSAI 指数(配当込み、円ベース)、日本債券:NOMURA BPI総合指数、外国債券:FTSE世界国債インデックス(除く日本、円ベース)。上記は過去の実績であり、いかなる記述も将来の投資収益等の示唆あるいは保証をするものではなく、またその結果の確実性を表明するものではありません。インデックスは直接的に投資の対象となるものではありません。インデックスには運用報酬がかかりません。
出所:上記インデックスのデータを元にラッセル・インベストメントが作成

投資家が予期しない出来事に直面したとき、感情に導かれてしまうと、計画的で分散化された長期的な資産運用計画が危険にさらされることになります。

この感情的なジェットコースターを避けるためには、自分が陥りやすい感情を理解しておくことが大切です。投資家の多くが陥りやすい落とし穴として、次の5つが挙げられます。

  • 過信
    これから上昇する株式や運用会社を選ぶ自身の能力を過大評価してしまうこと。

  • 損失回避
    研究によると、損失は利益が出ているときに感じる喜びの2倍の痛みを伴うと言われています。市場の変動が激しいとき、投資家は損失の感覚をより感じやすいです。

  • 過去のパフォーマンス追求
    よく見られることですが、残念ながら過去の実績に引きずられ、良好な分散ポートフォリオを手放し、債券や現金に乗り換えることは、将来に向けた資産形成を危うくする可能性があります。

  • 市場のタイミングを測ろうとする
    研究によると、誰も市場変動のタイミングを正確に予測することはできないということがわかっています。

  • リバランスの失敗
    投資家のポートフォリオのリスク/リターン特性は、足元の市場で起こっていることに左右されるべきではなく、高値で売り、安値で買うという原則を守る必要があります。

これらの落とし穴に陥らないためには、明確に定めた長期的な資産運用計画を作り、それを守り続けることが大切です。これが、自分の感情に振り回されないための一番の方法です。