プライベート・マーケットの成功戦略:新たな現実に備える
不確実性の中で、より革新的で盤石なポートフォリオを構築するための戦略。
ヴィック・レバレット
マネージング・ディレクター兼オルタナティブ責任者
経済環境は絶えず変化しており、マネーマーケットにおけるボラティリティの上昇、インフレ予想の変動、流動性の低下といった動きが生じています。そうした中で、昨今のポートフォリオに欠かせない構成要素として存在感を高めているのがプライベート・マーケットです。より高いリターン、分散効果、パブリック・マーケットにおける変動の回避といったメリットを求めて、プライベート資産に注目する投資家が増えています。
しかしながらプライベート投資には複雑な面もあり、特に現在の環境下では長期的な視点、厳格なデューデリジェンス、慎重な投資計画が必要となります。明確な戦略を持たずしてこの領域への投資を始め、失敗してしまう事例はよく見かけます。プライベート投資で万人に当てはまる手法はありません。その真価を引き出すためには、プライベート・エクイティ、ベンチャー・キャピタル、インフラ、不動産、プライベート・クレジットといった多様な投資機会を活用する必要があります。
プライベート・マーケットで成功するために重要な要素はタイミングだけではありません。どの投資機会に目を向け、誰と協力関係を築くべきかを知ることが必要です。つまり、投資機会と流動性のバランスを取ることが求められます。正しい成功戦略を知り、適切な運用会社を利用している投資家は、盤石なポートフォリオを構築し、不確実な環境下でも顧客の長期目標を達成することができます。ラッセル・インベストメントは、投資家ごとに進むべき道のりが異なることを認識しており、目標の達成に向けて専門的な知見を活かしたご支援を提供いたします。
市場の変動要因
マクロ経済のボラティリティと金融政策
マネーマーケットにおける最近の変動は、金利とインフレーションの見通しが極めて不透明であることを表しています。各国中央銀行は慎重な姿勢を崩しておらず、伝統的債券市場では高金利が長期化する可能性が高まっています。一方で、魅力的なオルタナティブとして注目されているのが、高い利回りやリスク調整後リターンを享受できるプライベート・クレジット戦略やリアルアセット戦略です。
関税と貿易摩擦
トランプ政権が保護主義的な貿易政策(主要輸入品に対する関税の再導入など)に回帰する動きを示す中で、世界のサプライチェーンは新たな混乱に直面する恐れがあります。一部のセクターには望ましくない影響を及ぼすものの、プライベート・キャピタルにおいては、国内のインフラ、製造業のリショアリング、サプライチェーンの革新に資金が流れる好機にもなっています。このような動きが、特に資本財、物流、ハードウェアなどのセクターにおいて、バリュエーションに影響を与える可能性があることを投資家は意識しておく必要があるでしょう。
規制の方向性
トランプ政権はビジネス界に有利となる規制緩和や法人税率の引き下げを進める見通しです。それによりM&Aが活発化し、プライベート・マーケットの拡大にもつながると考えられます。プライベート・エクイティについては、この動きがディールフローの増加をもたらし、中堅企業と大企業の双方で新しい投資機会が生まれる可能性があります。世界的に見ると、地域ごとの規制が異なるため、今後も欧州、アジア、中東におけるリスクや投資機会は多様なものとなるでしょう。
セキュリティに対するニーズ
地政学的な不安定さが高まり、またデジタルインフラへの依存度が増す中で、サイバーセキュリティ、クラウド・レジリエンス、データ主権に関わる投資が拡大しています。政府と企業の双方が、そうした分野への投資を重視しており、プライベート・キャピタルがイノベーションやインフラに資金を供給する新しい道筋が生まれつつあります。
代替となる流動性の源泉
IPO市場は依然として低迷していますが、セカンダリー取引(GP主導型ビークルなど)は有効なエグジット方法として勢いを増しています。特に資金調達が厳しい環境下において、こうした取引は投資家が資金の柔軟性や流動性を維持するためには非常に重要です。
投資戦略
このような投資機会から利益を享受するために、投資家はどのような対応をすべきでしょうか? その答えは、様々なセグメントへのプライベート投資に十分な資金を配分することです。
プライベート・エクイティ
企業の統合戦略が厳しく選別されるようになり、米国以外の市場でも成長の可能性が高まっていると考えられます。
- 米国市場: 米国ではビジネス界に有利な状況が一段と進み、企業活動の活発化が予想されます。ラッセル・インベストメントでは、成長テーマ(産業復興、サプライチェーン強化、官民連携など)にターゲットを絞ったアプローチが引き続き魅力的であると考えています。
- 人工知能(AI)とオートメーション: AI、オートメーション、新しいシステム統合ツールが活用できるようになったことで、自動車修理工場から会計事務所に至るサービスセクター全体で企業の統合戦略が促進されると考えられます。
- グローバル: 北米以外では、これまでプライベート・キャピタルの中心ではなかった日本、アジア(中国を除く)、中東などに潜在的な投資機会が見込めます。日本については、企業のディールフローがプライベート・キャピタルの資金供給フローに見合うかどうかが2025年に明らかになるでしょう。

"パブリック・マーケットが縮小する中で、プライベート・エクイティによるバイアウトはオペレーションの改善、戦略的なリポジショニング、セクターの専門知見を通じて企業のリターンを向上させ、投資家に幅広い投資機会をもたらしています。"
ヴィック・レバレット
マネージング・ディレクター兼オルタナティブ責任者
バイアウトが復調
欧州のプライベート・エクイティ・バイアウトは2023年の低迷から脱する
主要業種別の投下資本
出所:Pitchbook、2025年3月末時点
想定される戦略
プライベート・エクイティは、高いリターンと分散効果を求める投資家を呼び込み続けています。投資家は、非上場企業におけるオペレーション改善や戦略的なリポジショニングに対するエクスポージャーを得ることができます。また、プライベート・エクイティを活用することで、産業復興、エネルギー転換、AIなどの最新トレンドをポートフォリオに取り込むことができます。
ベンチャー・キャピタル
AIは生産性の向上を促進し、産業界や防衛部門に新しい機会をもたらします。
- AIの普及: AIエージェントやバーチャル・コラボレーターなどのイノベーションを伴いながらAIの普及は続くでしょう。ただし、普及が進展するということは、資金調達のラウンドが後になるほど将来の成長が価格に織り込まれてしまうことになります。そのため、ラッセル・インベストメントではアーリーステージでの投資が望ましいと考えています。
- ハードウェアとデータ・オーナーシップ: AIによるコード生成によりソフトウェア開発のエコノミクスが変容し、競争優位性となる分野はデータやハードウェアへと移っています。テクノロジーの革新により、ハードウェア分野の資本効率性や投資妙味は今後高まっていくと考えられます。政府もそれらに関連したセクターを重視するようになっており、公的な補助金と民間資金を組み合わせて新興企業を支援しようとしています。
- デジタル化: 製造業などにおけるデジタル化や、ロボティクス、自律システム、防衛技術といった勢いのある分野からは、新しいイノベーションや収益の流れが次々に生まれてくるでしょう。ラッセル・インベストメントはサイバーセキュリティ、イマージョンに関するテーマ、バイオヘルス、産業オートメーション、ハードウェア技術に投資機会が存在することを確信しています。
"非上場を維持しようとする企業の増加に伴い、ベンチャー・キャピタルは、移り変わる市場環境の下で投資家が高成長な投資機会に接する間口を広げ、小型企業に対するエクスポージャーを補う役割を果たしています"
サム・ピットマン
ストラテジック・アセット・アロケーション共同責任者
バリュエーションの上昇
米国のアーリーステージに属する企業のバリュエーションは2021年水準まで回復
資金調達前後のバリュエーション中央値
出所:Pitchbook、2025年3月末時点
想定される戦略
上場企業が減少し非上場企業が増加する中で、ベンチャー・キャピタルは、イノベーションを担う企業に早い段階で投資する機会を得る上で欠かせない存在となってきました。投資家はベンチャー・キャピタルに資金を配分することにより、変革を担うそのような企業へのエクスポージャーを早い段階から獲得できるだけでなく、幅広い小型企業への分散投資を行うこともできます。
プライベート不動産
プライベート不動産は回復期にあり、上場市場および非上場市場において一定の価値を生み出しています。
- レラティブ・バリュー: 上場・非上場の不動産資産を組み合わせると、両者の特性が異なることにより、投資家は価格を相対的に比較して、適切な価格となっていない物件の売買や市場全体にわたる幅広い物件の購入ができます。
- 市場の安定: 2024年末までの3年ベースで見ると、上場不動産と非上場不動産はいずれも、株式に対して2桁台のアンダーパフォームとなっていました。今後のビンテージでは、こうしたパフォーマンス格差は縮小するとラッセル・インベストメントは予想しています。金利変動の大きさにより多くのセクターで新規着工が減速していることから、既存資産では稼働率が安定し、賃料が上昇しています。
- 欧州:金利が予想どおりに低下しない可能性があるため、自由度が高かった従来の資本市場において資金調達を行った資産は引き続き厳しい状況に置かれています。ラッセル・インベストメントでは、プライベート・マーケットにおけるコア不動産のバリュエーションは今年中に底打ちし、投資適格な商業不動産担保証券(CMBS)などの分野で得られる8%前後の利回りと競合すると予想しています。欧州市場では銀行融資が優勢であり、本格的なCMBS市場は存在しないため、銀行が保守的になれば欧州株式のバリュエーションにいびつな影響を与える可能性があり、債券や非コア戦略の有望性が高まると考えられます。
"ポートフォリオにインフレヘッジの特性を有する不動産を取り入れようと考えている長期投資家にとって、現在の環境は絶好のエントリーポイントとなります"
アムニート・シン
アセット・アロケーション担当ディレクター
取引額の再上昇
昨年の北米プライベート不動産取引額は増加
セクター別の取引額
出所:MSCI Real Capital Analytics、2025年2月時点
想定される戦略
概して不動産からの賃料収入は長期的にインフレの動きに追随することから、不動産は現在必要不可欠な資産クラスとなっています。オフィス不動産はコロナ禍以降不調が続いていますが、物流やデータセンターなどのセクターはAIに関わる需要から恩恵を受ける可能性が高いといえます。トータル・ポートフォリオ・ソリューションにおいて、不動産は必要不可欠なエクスポージャーです。
プライベート・インフラ
プライベート・インフラは、インフレと連動したキャッシュフローとデジタルセクターやエネルギーセクターからの需要により今後の成長が期待できる分野ですが、過剰供給リスクや地政学リスクを有する一面もあります。
- エネルギーインフラ: エネルギー需要の増大は、プライベート・キャピタルの活用にとって最も重要な分野の一つです。再生可能エネルギーと従来型燃料のいずれについても、電力需要の大きい世界中の国に電力を供給することは、投資機会として成長している分野です。
- デジタルインフラ: AIの登場により、電力や水資源の深刻な供給不足に対処して需要を満たす必要が生じています。データセンター向けの需要も大きいものの、いずれかの時点で供給過剰になる可能性が低くない点には注意が必要です。そのため、ジェネラル・パートナーのスキルや運用会社の選定が今後より重要になると考えられます。
- 地政学: 欧州については、競争力の維持を図った結果として、AIテクノロジー・スタックの大部分をエネルギーがより豊富な地域にアウトソーシングする可能性があります。また、欧州におけるエネルギー転換の今後の推移や、ロシアからのエネルギー供給再開の可能性も、インフラ投資に影響を与えるでしょう。
"インフラは世界的変化の中心となる要素であり、移り変わる環境において安定性、投資機会、レジリエンスをもたらしています"
ピエール・ドンゴ・ソリア
アセット・アロケーション主任ストラテジスト
再生可能エネルギーの拡大
北米の発電量全体に占める再生可能エネルギーの比率が上昇
燃料源別の発電量(総発電量比 %)
出所:International Energy Agency、2025年4月時点
想定される戦略
エネルギー転換とAIモデルの成長発展が大規模なインフラ投資を牽引しており、それにより港湾や通信ネットワークなどの成熟したインフラのセグメントが拡大すると見込まれます。インフラは、インフレヘッジの特性を有することや、世界経済にとって重要であることを踏まえると、戦略的資産配分において当然の選択肢となります。
プライベート・クレジット
優先担保付融資と資産担保融資がプライベート・クレジットの主力となります。また、エバーグリーン・ファンドは資金調達に柔軟性をもたらしています。
- 優先担保付融資: 優先担保付融資は、キャッシュフローに対する最も優先される請求権を有するものであり、企業向けとリアルアセット向けのいずれにおいても選好されています。プライベート・クレジット市場の大半は変動金利であるため、基準金利の上昇は貸し手がより多くのキャッシュフローを享受できることを意味します。ジュニアローンや、スポンサーが支援する信用力の低い借り手は、資金調達コストの上昇による影響を受け始めています。
- アセット・ベースト・レンディング: 特定の資産を裏付けとする融資は、企業の営業利益またはEBITDAに基づく融資(キャッシュフロー・レンディング)よりも選好されています。設備投資ニーズの拡大に伴い、ノンバンク市場のファンド資産には今後さらにイノベーションが到来するとラッセル・インベストメントは考えています。
- エバーグリーン・ビークル: 金利見通しが不透明である中で、投資サイクルを開始したばかりの(ロックアップ期間の初期にある)ファンドは、資本の柔軟性が高く、今後のビンテージにおける戦略的な展開を優位に進めるとラッセル・インベストメントは考えています。エバーグリーン・ビークルのストラクチャーを用いれば流動性は向上しますが、このストラクチャーはデュレーションの長い不良債権やディストレスト戦略の保有を目的としたものではありません。ノンバンク融資市場ではデフォルトが長期的に発生する局面に置かれた場合は、クローズドエンド型クレジットのスペシャリストや活発なセカンダリー・マーケットが解決策になると考えられます。したがって、戦略による分散化や、適切な運用会社の選択によるアウトパフォーマンスの実現が不可欠となります。
"プライベート・クレジットはボラティリティが株式より大幅に低いにもかかわらず、株式に匹敵する優れた投資リターンを生み出しているため、効率的なポートフォリオの重要な構成要素となっています"
キース・ブレイクビル
ディレクター兼シニア・ポートフォリオ・マネージャー
規模の重要性
中規模のプライベート・デット・ファンドが最も一般的
ファンド規模別のプライベート・デット・ファンド件数
想定される戦略
プライベート・クレジット市場は急成長しており、現在では非投資適格融資の大きな部分を占めるまでになっています。非投資適格債券を含む、分散された戦略的資産配分を行えば、上場ハイイールド債やバンクローンをプライベート・デットで補強できると考えられます。
結論
プライベート・マーケットは、今後数カ月の間に規制環境の変化、新たなセキュリティ要件、変動する流動性の動向により再定義されることになるとラッセル・インベストメントは考えています。複雑性は増すものの、新たな投資機会が多数生まれるに違いありません。この記事でお示しした考え方を活用することで、投資家は高成長の投資機会を活かすとともに、未来を形作るブレイクスルーの推進力となるような、新たに台頭する様々なセクターや地域において価値を実現することができるでしょう。つまり、プライベート・マーケットの復活は既に進行しているのです。
ラッセル・インベストメントが提供するプライベート・マーケットの投資機会について、詳しくはプライベート・マーケット・リサーチのページをご覧ください。



