関税の波乱に直面したときに注視すべきポイント

以下は、2025年4月4日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら


要点まとめ:

  • 世界的な貿易戦争は現実的なリスクである
  • 特に中央銀行を含む各国の政策当局の対応が、市場心理に大きな影響を与える
  • 政策の方向性が明確になるまでは市場の不安定さが続く可能性があるが、最終的には長期的なファンダメンタルズが市場を支えることになる

何が起きているのか?

投資家の多くが不安を感じている通り、4月2日にトランプ米大統領が「相互関税」の導入を発表して以来、世界の株式市場は急落しています。執筆時点(4月4日午前10時〈米太平洋時間〉)で、米国、英国、欧州の株価は発表以降およそ10%下落。投資家が安全資産に資金を移す動きから、各国の国債利回りも0.2~0.3%ポイント低下しています。


発表以降の市場の反応

  • 米国、欧州、英国の株式市場はいずれも約9%下落
  • 米国10年国債利回りは20ベーシスポイント低下し、およそ4.0%に
  • 英国10年債(ギルト)利回りは25ベーシスポイント低下し、4.4%に
  • ドイツ10年債(ブンズ)利回りは20ベーシスポイント低下し、2.5%に
  • ユーロは対米ドルで約2%上昇
  • 英ポンドは対米ドルで約1%上昇
  • 年末までにFRB(米連邦準備制度)による利下げが4回織り込まれ、フェデラルファンド金利は3.25%まで低下する見込み
  • ECB(欧州中央銀行)による利下げは年内に3回織り込まれ、預金ファシリティ金利は1.5~1.75%に
  • BOE(イングランド銀行)による利下げも年内に3回織り込まれ、政策金利は3.75%に

今回の貿易戦争が世界的な広がりを見せている点が、大きな問題とされています。たとえばEUは、米国向け輸出への直接的な依存度はそれほど高くないものの、財の輸出全体はGDPの約40%を占めています。英国でもその割合は約15%。市場は、貿易戦争やそれに伴う報復措置、さらには米国政権の政策の不透明感が世界的な景気後退を引き起こし、個別の関税措置の影響を一層拡大させることを懸念しています。

報復か、交渉か?

注視すべきポイントのひとつは、各国政府が報復措置を選ぶのか、それとも交渉の道を模索するのかという点です。本日、中国は米国からの輸入品に対し、報復関税として34%の関税を課すと発表しました。一方、欧州委員会(EC)のフォン・デア・ライエン委員長はより慎重な姿勢を示しており、対応策を発表するまでに4週間の猶予を設けるとしています。また、ECは「大西洋を挟んだ貿易上の障壁を取り除くための交渉を望む」とも述べています。英国は、今回課された10%という「比較的低い」関税に安堵していると見られ、現時点で公式な声明は出していません。

もうひとつの重要な要素は、トランプ大統領が、自らが「不公平」と見なす貿易障壁の是正に取り組む国々に対して、関税を引き下げる判断をするかどうかです。こうした対応には前例があります。トランプ氏は第1期の政権時にも、最大限の圧力をかけるために強硬な政策を打ち出した後、状況を見て譲歩し「大きな成果を得た」と宣言するという一連のパターンを取ったことがあります。

ハト派の出番か

一方で、各国政策当局の対応にも注目が集まっています。市場は、ECB(欧州中央銀行)やイングランド銀行による追加利下げを織り込み始めており、中央銀行関係者からのハト派的な発言が、市場の不安を和らげる手助けとなるでしょう。

なかでも注目すべきは、FRB(米連邦準備制度)のパウエル議長の対応です。仮に関税によるインフレ圧力が利下げペースを鈍化させるとの見方が示されれば、米国および世界経済のリセッション懸念が一段と強まる可能性があります。逆に、景気を下支えするために政策スタンスを迅速に緩和方向へ転じるという明確なシグナルが示されれば、投資家の信頼感を高める要因となるでしょう。

4月4日のパウエル議長が述べたコメントによれば、FRBは「より明確な状況を見極めるまで様子を見る」姿勢を維持しているようです。

結論

これまでも、市場がパニックに陥る局面は幾度となく経験してきました。政策の方向性が見えてくるまでは、相場の不安定な状況が続く可能性があります。ただし、時間の経過とともに、経済成長や企業収益の拡大といった長期的なファンダメンタルズに市場の関心は再び戻ってくるでしょう。

ラッセル・インベストメントでは、このような不安定な局面においても、引き続きポートフォリオの分散に注力しています。また、市場のゆがみが極端な水準に達していないかを見極めるため、投資家心理の指標を継続的に注視しています。