OCIOとは ~OCIOを導入する目的や意義について考える~
OCIOとは
OCIO (Outsourced Chief Investment Officer)とは、資産運用のプロセスにおいて、外部の運用プロフェッショナルのスキルやリソースを活用することである。
OCIOと聞いた時に、「リターンを追求するために、運用資金をOCIO業者に全額委託すること」というイメージがあるかも知れない。しかしこれには誤解も多く含まれている。はじめにOCIOを導入する目的や意義は、リターン追求だけではない。また全額を委託する必要もなく、目的に応じた部分的な活用や、カスタマイズなども含めて様々な形態があり得る。
重要なのは、OCIOに何を求めるのか、何が出来るのか、従来の資産運用の方法とは何が違うのかであると考える。
仮にOCIOが、アセットオーナーの代わりに、超過リターンの獲得が期待できる優秀なマネージャー(運用機関)を世界中から発掘し、それへの投資を提供するようなサービスであれば、それは従来の資産運用の方法と変わらない。つまり、コンサルタントやゲートキーパー、ファンド・オブ・ファンズ、マルチ・アセットなどを採用して、優秀なマネージャーへのアクセスを得ていることと大差はない。さらに優秀なマネージャーを発掘して運用構成を構築することは、これまでもアセットオーナーが十分に工夫を凝らして実施してきたことであり、必ずしもOCIOが必要という訳でもないだろう。
OCIOを導入する本当の目的や意義
OCIOを導入する目的はリターン追求だけではない。むしろコスト抑制やリスク低減、そしてコンサルタント・アドバイスを通じた、プロセス全体の効率化である。
例えばOCIO業者のなかには、トランジッション・マネジメントなどを行う業者がある。そのような業者は、個別銘柄の売買執行能力やポートフォリオ全体のリスク管理能力に長けていることが多い。このような場合、アクティブ・マネージャーに調査分析⇒銘柄選択⇒売買執行(ポートフォリオ構築)⇒リスク管理の全プロセスを委託するのではなく、投資アイデアの創出部分である調査分析と銘柄選択の部分だけをアクティブ・フィーを支払って委託し、売買執行やリスク管理については、その能力とテクノロジーを持つ廉価なOCIO業者に委託することが考えられる。それによりマネージャーの運用報酬を投資アイデアの創出部分のみに限定すること(運用報酬の交渉)による運用コストの抑制、複数マネージャー間の売買執行をOCIO業者が束ねることによる取引コストの抑制、ポートフォリオ・リスク分析によるリスクの低減などが期待できる。
そしてリターン追求+コスト抑制+リスク低減という顧客利益の最大化を通じたガバナンスの強化こそが、OCIOを導入する最大のメリットであると考える。
【OCIOを導入する目的や意義】

OCIOの導入方法
OCIOの導入方法は、目的に応じた部分的な導入やカスタマイズなど様々である。
部分的な導入としては、資産クラスごとや運用プロセスごとなどの導入が可能である。
資産クラスごととは、例えば、資産運用の主たる収益ドライバーである株式運用の場合、高いリターンが期待できる一方で、コストやリスクも高いことから、株式運用部分を委託することにより、コスト抑制やリスク低減を目的とすることである。また運用商品が複雑で、かつ運用構成の構築が難しく、キャッシュフローの管理など事務負荷も大きいプライベートアセット投資部分を委託することにより、プロセス効率化やガバナンス強化を目的とすることなどである。
運用プロセスごととは、政策アセットミックス⇒運用戦略構成⇒運用機関構成という運用構成の構築プロセスにおいて、例えば、アセットオーナーが運用目標/運用方針を決定し、コンサルタントまたはOCIO業者と共に政策アセットミックス/運用戦略構成を構築したうえで、OCIO業者に運用機関構成の構築/実装を委託するなどである。またその場合においても、アセットオーナーが運用機関構成を決定し、OCIO業者が運用コストや取引コストの抑制も含めてそれを実装し、リスクのモニタリングや調整を行うという委託方法もある。
またカスタマイズとは、例えば株式アクティブ・マネージャーは、共通して米国をアンダーウェイトにする傾向があるため、米国株式先物で株式ポートフォリオ全体の米国アンダーウェイトを補完することや、同じく株式アクティブ・マネージャーは値動きの大きい高ボラティリティ銘柄を選好する傾向があるため、低ボラティリティ・ファクターで株式ポートフォリオ全体のボラティリティ・リスクを低減するなど、オーバーレイによるリスク調整が挙げられる。
OCIOの効果
OCIOの活用により、アセットオーナーは制度運営部分により注力することが可能となる。
特に近年は、母体企業や加入者への説明責任、年金財政の健全性管理など、制度運営部分の強化、つまりガバナンスの強化がより重要視されるようになった。
このため資産運用部分において、必要に応じて外部運用プロフェッショナルのスキル・リソースを活用することにより、アセットオーナーはその役割と責任である制度運営部分により注力することが可能になる。このように資産運用面と制度運営面の両面において、レベルの高いガバナンス体制を構築して運用を実施することが重要となる。そして透明性を確保しつつ、運用と制度の専門的知見を十分に活かした年金運営の体制とプロセスを整えることが、フィデューシャリー・デューティーを果たすために必要であり、本来の意味での運用の高度化に繋がると考える。