投資収益を改善させるためのプライベート・エクイティ投資のカギは、「Jカーブ」の平準化

以下は、2022年3月14日にラッセル・インベストメント(米国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら

はじめに

プライベート・マーケットに対する投資家の興味や参入は、引き続き拡大傾向にあります。投資家がプライベート・マーケットに興味を持つ理由は様々で、未公開企業といった分野に対して投資可能な機会を十分に利用したいというものもあれば、公開市場に比べて低いボラティリティで高いリターンを得られる潜在的な可能性を探ってみたいといったものもあります。とはいえ、トータル・ポートフォリオの一部としてプライベート・マーケットへの投資を成功させるには、いくつか避けて通れない問題があります。中でも投資家が解決すべき最も差し迫った問題といえば、「Jカーブ」をどう抑えるかということでしょう。

「Jカーブ」とは?

プライベート・マーケットにおいて「Jカーブ」とはよく使われる用語で、クローズド・エンド型ファンド投資、特にプライマリー(新規)投資において、投資期間の初期段階ではリターンがマイナスになる傾向のことを言います。これは、コミットメントが実際に投資されるまでには数年かかることがあることに加え、分配金や投資ポートフォリオの売却といった形でリターンが実現する前でも、(コミットメント額に対して)手数料はかかってしまうためです。いずれ投資段階が進み、ファンドの純資産価値が上昇し、投資収益も実現することになれば、それにつれて「Jカーブ」も逆転することになるのですが、初期段階では投資家はマイナスのリターンにさらされることになるのです。当ブログではプライベート・マーケット投資プログラムにおいて、「Jカーブ」をできるだけ解消し、投資結果を改善させる可能性のある戦略について議論したいと考えます。

投資家がプライベート・マーケットに対して戦略的な分散投資を行おうと思うのであれば、ポートフォリオ構築の際に重要なカギとなる手段は、セカンダリー(プライベート・マーケットにおける既存ファンド持分の購入)とコインベストメント(ポートフォリオ対象企業に対する直接投資)といった戦略を活用することです。ポートフォリオの一定部分をセカンダリーやコインベストメントに振り向けることによって、投資資本の回収が早まり、収益も早期に上がり、最終的にはプライベート・マーケット・ポートフォリオにおけるパフォーマンスを早い段階でプラスにすることが可能となるのです。

セカンダリー・マーケットとは?

セカンダリー・マーケット とは、プライベート・マーケット・ファンドにおける既存投資分を売買する市場のことです。セカンダリー・ファンドは、投資マネージャー(ゼネラル・パートナー:GP)またはファンドへの出資者(リミテッド・パートナー:LP)から購入する場合が一般的です。セカンダリー投資は既存ポートフォリオにおける投資先企業で構成されますので、ファンドのライフサイクルにおいてはプライマリー・ファンド投資に比べて、より成熟した段階のものであるといえます。

セカンダリー・ファンドが「Jカーブ」の解消、早期資金回収を可能にする方法とは?

より成熟した段階のものであるという性質上、セカンダリー・ファンドには投資家にとってさらに多くのメリットがあります。上述の通り、一般的なプライベート・マーケット・ファンドでは、投資が開始されると資金が流出し、投資期間の初期段階ではパフォーマンスがマイナスとなる「Jカーブ」が発生します。これは、初めてプライベート・マーケット・ポートフォリオを構築する新規参入者にとって、特に厄介な問題でもあります。既に長期間運用されているファンドからの分配がなければ、プライベート・マーケットへの新規参入者は、何年間もマイナス・リターンや低リターンに直面することになります。セカンダリー・ファンドを追加することで、ポートフォリオ構成を最適化することが可能となります。投資ライフサイクルの途中(つまり価値を生み始める、または生んでいる段階)で参入することによって、当初のパフォーマンス低下を軽減できるからです。言い換えれば、マイナスリターン(資金流出)の期間を短くする、またはマイナス幅(流出量)を減らすことで、プラスリターン(資金流入)に転じるまでの時期を早められるため、プライベート・マーケットのポートフォリオにおける初期段階の「Jカーブ」を解消し、資金の早期回収につなげられるのです。

セカンダリー・ファンドでの投資が進捗しているほど、短期間でエグジットが可能となり、プライマリー・マーケットでの投資に比べて投資期間を短縮することが可能となります。つまり、セカンダリー・ファンドは投資期間への制約がある投資家に、プライマリー・ファンドでは投資できない長期戦略への参入機会を提供する術ともなります。

セカンダリーの他の潜在的な長所とは?

セカンダリーの他の潜在的な長所といえば、「ブラインド・プール」型のリスクを削減することや、純資産価値に対して割安(ディスカウント)で資産購入できる可能性があることなどがあります。

セカンダリー投資のもう一つの重要なカギとなる長所は、「ブラインド・プール」型リスクを削減できることです。プライマリー・ファンドへの投資を行う場合、投資家はGPがどのような投資を行うのか、前もって知ることができません。対照的に、セカンダリー・ファンドへの投資は既存のコミットメントに対して行われるものですので、投資の前にこれら資産のデューディリジェンスを行うことが可能です。投資資産に対する透明性から、早期エグジット、保有資産の評価引き上げ、損益分岐点の見極めといった将来のパフォーマンスに対する判断が行いやすくなります。これらはすべて、投資家にとって短期的なパフォーマンス結果の改善につながるものです。

さらに、セカンダリー投資では、セカンダリー・マーケット特有の価格ダイナミクスから生じるディスカウントの恩恵があります。セカンダリー投資を純資産価値に対してディスカウントで購入することによって、時価評価による早い時期での評価益の計上や、「Jカーブ」の影響によるマイナス分に対する緩衝材としての役割も期待できます。ただし、ディスカウントの恩恵を受けられるかどうかは、売り手の状況、投資資産やスポンサーの質、関連するマーケット環境など、さまざまな要因に左右されます。

コインベストメントとは?

コインベストメントとは、GPとともにポートフォリオ企業に対して直接投資を行うことです。従って、コインベストメントを行えば、投資期間が短縮されることになります。なぜなら、投資がポートフォリオ内の企業に対して行われた場合、LPとしてのコミットメントの100%が先行して投資されることになるからです。加えて、一般的にコインベストメントには手数料がかかりません。つまりプライマリー・ファンドによるポートフォリオ構築以外で、ハイクオリティなGPとともにハイクオリティな取引に参入することは、非常にコスト効率が良い方法であるといえます。投資期間の短縮と平均手数料引下げの二重の効果によって、「Jカーブ」の長さも深さも効果的に小さくすることができます。

結論

投資家がプライベート・マーケットに対して戦略的な分散投資を行おうと思うのであれば、カギとなるのはいかに「Jカーブ」を抑えることができるかです。必要とされる規模と、トップティアの投資機会へのアクセス実績を備えたパートナー企業や、セカンダリーやコインベストメントといった分野での投資やポートフォリオ運用に関する知識を持った専門家と連携することによって、投資家はプライベート市場での投資における「Jカーブ」を解消させ、ひいては投資結果を改善させる可能性があるのです。

 

すべての投資は、投資元本の潜在的な損失を含め、リスクが伴います。通常、収益率は均一ではなく、損失を被る可能性があります。あらゆるタイプのポートフォリオ構築と同様に、リスクを軽減し、収益の向上を目指す際には、特定時点で意図せずにリターンを低下させる可能性があります。