株式運用における地域特化型戦略の活用
概要:
- 現在、外国株式運用は、世界全体の株式市場から銘柄を選択してポートフォリオを構築するグローバル型が中心になっている。これに対して、地域特化型運用が、超過収益の源泉を拡げるために活用できると考えられる。
- 地域特化型運用には、各国・地域の特性に対する熟知、相対的に効率性の低いと考えられる中小型市場での銘柄選択能力の発揮が期待され、大型バイアスを持ちやすいグローバル型に対する分散になりうると考える。
【運営の改善が求められる株式運用】
株式運用は、年金運用において重要なリターンドライバーでありながら、超過収益を獲得することが難しい資産クラスになっている。直近、株式の投資環境は、米国における景気後退懸念を反映してきているようにも思える。追加的なリターンとして超過収益を獲得し、収益補強の糧としたいところだ。
弊社は、株式ポートフォリオの改善策として、これまで「サブスタイルを踏まえた分散」「意図せざるリスクの管理」について述べてきた。この記事では、より積極的に収益源泉を分散し、パフォーマンスの質を上げるアイデアとして株式の地域特化型運用に着目したい。 地域特化型運用における銘柄選択の視点は、現在外国株式運用で主流になっているグローバル型とは異なる。そのため、地域特化型の活用が超過収益の源泉を拡げることにつながると考えている。
【得意分野の異なるグローバル型と地域特化型】
外国株式運用では、2000年代以降、グローバリゼーションの進展とともに、グローバル株式市場全体の中から銘柄を選択してポートフォリオを構築するグローバル型の採用が標準化した。だが、依然として国内株式特化型、欧州株式特化型のように国・地域別の特化型運用も活発に行われている。新興国を含め国・地域単位であっても、各々の市場はアクティブ運用市場として十分な厚み(銘柄数、企業規模、業種の分散度合い等)を有する。 グローバル型と地域特化型では、銘柄選択の視点に違いがあると考えている。両者をうまく組み合わせることにより、収益源泉の分散につながると考えられる。
図1グローバル型と地域特化型の比較
グローバル型の特徴
グローバル型の特徴は、銘柄調査アナリストが、地域横断的な目線で、各セクター内の優れた銘柄を企業の国籍に関わらず選定することだ。世界的な経済成長やグローバル化を背景に貿易量は増加、特に大企業は自国外にも大きな収益源を持つようになった。グローバルで競争が激化する中では、ある国のセクターにおいて相対的に優良な銘柄ではなく、グローバルにおける比較の中で優良な銘柄を発掘することが超過収益につながりやすい。 グローバル型において選定される銘柄は、相対的に大型バイアスが確認されることが想定される。前述のような目線を持つことと、カバー範囲がグローバル全体を対象とするため、リサーチ体制の制約から中小型銘柄へのリサーチまで手が届きづらいためだ。
地域特化型の特徴
地域特化型は、特定の国・地域において優れた銘柄を選択する。運用者は、国ごとに異なる産業構造やその強み、市場の特性を深く理解した分析により市場に打ち勝つ運用を目指す。 地域特化型は、グローバル型に比べて、より中小型銘柄のリサーチにおいて強みを発揮することが期待される。アナリストカバレッジ(その銘柄の調査を行うアナリスト数)と超過収益獲得可能性の関係を考えてみると、一般的に時価総額が大きく、カバレッジの高い銘柄ほど、多くのアナリストにより効率的な(正しい)価格付けがされやすく、他者を出し抜くことが難しくなる。一方で、時価総額が小さくなるほど明らかにカバレッジは低下する。そのため、中小型市場の非効率性は高くなり、リサーチの優位性が超過収益として表れやすくなると考えられる。
【過去実績では、地域特化型の超過収益水準はグローバル型を上回った】
地域特化型は、実際パフォーマンスを出しているか。弊社が収集しているユニバースデータを分析すると、6つの地域特化型の超過収益(ユニバース中位値ベース)は、グローバル型を上回った(表1)。
グローバル型は、市場の集中化を一要因として過去3, 5年苦戦してきた。市場が大幅に上昇し、特に大型株式が優勢だった2023年度でいえば、アクティブ運用の苦戦は地域特化型にも当てはまる。だが、地域特化型が過去3, 5年でグローバル型に比べて優位だったという事実は、グローバル型だけのポートフォリオに対する分散として地域特化型に活用の余地があると解釈もできるだろう。
ただし、時系列分析からは、地域特化型がグローバル型に対して、分散が効きづらい時期も観察された。それは、米中対立や米国の急な金利上昇により変動性の大きい銘柄が嫌われた2018年度だ。世界的なファクター動向やイベントによっては、両者の分散が効きづらい時期があることも認識する必要がある。
表1 各国・地域アクティブユニバースの超過収益(2024年3月末時点)
出所:ラッセル・インベストメント2024年3月末時点。表中の値は各国・地域ユニバースリターンの超過収益。ベンチマークはMSCIの各国・地域インデックス(英国のみFTSE All-Shareインデックス)。円ベース。期間1年以上の数値は年率。報酬控除前。単位:%。
【地域特化型活用には、より管理面の配慮が必要】
地域特化型を活用した場合における留意点としては、ポートフォリオ全体の国別配分が意図しないものになっていないかアセットオーナーがより注意を払う必要がある点が挙げられる。グローバル型採用の場合、国別配分は運用機関の投資判断と解釈されるが、地域特化型を採用する場合、国別配分はアセットオーナーがより注意を払う必要がある。
地域特化型の活用として例えば、グローバル型のポートフォリオにおける一部地域のアンダーウェイト(多くの場合、米国)を地域特化型で補完して国別リスクを低減させることが考えられる。また地域特化型戦略の組み合わせで時価総額比率に近づけたポートフォリオを組む選択肢もある。
ポートフォリオ管理の負担をどのように効率化するかという課題はあるが、地域特化型の活用は、株式ポートフォリオにこれまでにない銘柄選択の視点を取り入れることになりうる。投資アイデアの分散という観点で運用効率性の改善につながりうると考えられる。
図2 地域特化型を活用した運営のイメージ