資産運用基礎講座シリーズ
債券実務編(第7回):証券化商品戦略(資産担保証券)
資産担保証券の優先劣後構造
今回は証券化商品のなかでも、非政府系または民間系の資産担保証券(ABS: Asset Backed Securities)を取り上げます(以下、資産担保証券は民間系の意味)。 資産担保証券も政府系モーゲージ担保証券と同じく証券化商品の一種です。つまり裏付けとなる担保資産があり、そこから発生するキャッシュフロー(元利金)を投資家に還元する仕組みの債券です。
政府系モーゲージ担保証券との主な違いは、政府関連機関などからの保証が無いことです。このためクレジット債券としての性質が強く、いわば社債、エマージング債と並ぶ「第3のクレジット債券」と言えます。それだけに、担保資産の質など信用リスク分析が投資判断をする上での要となります。また資産担保証券の担保資産は多岐にわたります。政府系モーゲージ担保証券の主な担保資産は住宅ローンでしたが、資産担保証券の担保資産には住宅ローンの他にも自動車ローンやクレジットカードローン、学生ローンなどがあります。
資産担保証券の最大の特徴は、担保資産から発生するキャッシュフローを受け取る順位が、投資家層ごとに予め決められている「優先劣後構造」です。
例えば投資家に100の資金を支払わないといけない際に、キャッシュフローが80しか発生しなかったとします。この場合、投資家全員に80のキャッシュフローを平等に支払う方法と、事前に決められた投資家に優先的に支払いを行い、その後に残った資金を他の投資家に支払う方法とがあります。この後者の仕組みを優先劣後構造といいます。
優先劣後構造では、投資家を階層分けすることより、キャッシュフローの受け取り優先順位を区分します。
具体的に、優先的に支払いを受ける層を「シニア」、最も受け取り順位が劣後する層を「エクイティ」と呼びます。またシニアとエクイティの中間層も存在し、「メザニン」(Mezzanine:中間や中二階の意味)や「ジュニア」と呼ばれます。
このためキャッシュフローの受け取り優先順位としては、シニア、メザニン、ジュニア、エクイティの順となります。つまり担保資産から発生したキャッシュフローを、まずはシニア投資家層が受け取り、それで余った部分をメザニン投資家層が、それでも余った部分をジュニア投資家層、エクイティ投資家層という順番で受け取ります。
【図表1】資産担保証券の優先劣後構造の例(※イメージ図)
出所 ラッセル・インベストメント作成
資産担保証券の個別銘柄価格は、上記の要素などを中心に考慮して推定されます。 例えば、「ニューヨークの物件を保有するFICOスコア=600点の債務者が、LTV=70%で住宅ローンを借りており、現在30日延滞となっている場合、どの程度の確率で元利金が返済されるのか」などの推定を行います。さらに、「30日延滞となっている債務者が正常化する確率と90日延滞になる確率」や「90日延滞となっている債務者が正常化する確率とデフォルトする確率」など、返済状況が変化する確率(遷移確率)などを盛り込む場合もあります。
【図表2】担保資産分析に必要な個別債権の要素例
出所 ラッセル・インベストメント作成
資産担保証券の個別銘柄価格は、上記の要素などを中心に考慮して推定されます。
例えば、「ニューヨークの物件を保有するFICOスコア=600点の債務者が、LTV=70%で住宅ローンを借りており、現在30日延滞となっている場合、どの程度の確率で元利金が返済されるのか」などの推定を行います。さらに、「30日延滞となっている債務者が正常化する確率と90日延滞になる確率」や「90日延滞となっている債務者が正常化する確率とデフォルトする確率」など、返済状況が変化する確率(遷移確率)などを盛り込む場合もあります。
【図表3】返済状況の変化例
出所 ラッセル・インベストメント作成
このような分析は、複数のローンをFICOスコアの水準など同様な属性で分類して、グループ化して行う場合もあれば、個々の住宅ローンを分析して、全担保資産を積み上げる場合などもあります。このように将来キャッシュフローを推定することによって、理論価格を推定します。この理論価値を市場価格と比較することで割高・割安を判断し、割安な銘柄に投資する手法となります。
資産担保証券投資のメリット
このように、資産担保証券の信用リスクは、社債やエマージング債のような発行体の信用力と異なります。資産担保証券の信用リスクのことを「証券化リスク」または「証券化クレジット」と呼びますが、それは社債の企業クレジットやエマージング債の新興国クレジット(ソブリン・クレジット)のリスクとは異なるため、広義のクレジット債券投資におけるクレジット・リスクの分散に寄与すると考えられます。
また資産担保証券は変動利付債も多いため、金利上昇対応にもなり得ます。通常の固定利付債券の場合、金利が上昇すると相対的に固定クーポンの水準の投資魅力度が低下するため、債券価格は下落します。一方、変動利付債は金利が上昇するとクーポンも同じく上昇するため、債券価格が下落しにくく、金利上昇に対する価格耐性を持っていると考えられます。
※本稿では理解の促進を優先して、一部、簡略化・簡易化している部分があります
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