資産運用基礎講座シリーズ

債券運用編(第5回)

コンサルティング部 エグゼクティブコンサルタント 金武伸治

債券運用編(第5回):金利年限ごとの価格決定要因の違い

イールドカーブの形状変化

金利の年限は、一般的に短期(2年程度以下)、中期(2年~7年程度)、長期(7年~10年程度)、超長期(10年程度超)に大別できます。

通常、金利の年限が長いほど、利回りは高くなります。これを順イールドと呼びます。 年限が長いほど利回りが高くなる主な理由は、残存年数が長いほど、将来の金利変動リスクにさらされる期間が長くなるため、そのリスクに対する対価(プレミアム)が要求されるからです。また残存年数が長いほど、金利感応度であるデュレーションも長いため、価格変動リスクがより大きくなるためです。 このように、より長い年限に対する追加的な要求利回りを、タームプレミアム(または期間プレミアム)と呼びます。

しかし、金融政策や経済環境、投資家需給といった要因によって、イールドカーブの形状は変化します。
短期金利と長期金利の差が縮小することをフラット化(逆に拡大することをスティープ化)、短期金利と長期金利の水準が逆転することを逆イールド化と呼びます。 やや詳細になりますが、金利水準が低下しながら、つまり債券価格が上昇(価格が上昇することをブルと呼びます)しながらフラット化することを、ブル・フラット化と呼びます。一方で、金利水準が上昇しながら、つまり債券価格が下落(価格が下落することをベアと呼びます)しながらフラット化することをベア・フラット化と呼びます。 同様に、金利水準が低下しながらスティープ化することを、ブル・スティープ化と呼び、金利水準が上昇しながらスティープ化することを、ベア・スティープ化と呼びます。

金利年限ごとの市場参加者の違い

イールドカーブの形状が変化する主な原因は、短期金利や長期金利の動き方がやや異なることにあります。その背景には、金利の年限ごとに市場参加者が異なることや、影響を受けやすい経済要素が異なることなどが挙げられます。 図表2は、金利年限ごとの市場参加者の違いを示しています。 短期~中期金利ゾーンの主な参加者は銀行です。 銀行の主な運用原資は預金であるため、預金金利の参照金利となる短期金利を上回るような運用成果が求められます。このため、価格変動リスクが高い長期ではなく、短期金利を上回る利回りが期待される短期~中期金利で運用を行うことが一般的です。

中期~長期金利ゾーンでは国債や社債が多く発行されており、その動向が金利に影響を与えます。このため市場参加者は債券発行体や債券発行を引き受ける証券会社となります。 発行額が多い国債は2年、5年、10年物で、これらが発行されると需給バランスが緩み、当該年限の金利が上昇します。社債も5年から10年物の発行がメインです。 例えば、新規発行された国債を引き受けた(落札した)証券会社は、顧客に国債を販売するまでの間、価格変動リスクを抑制するために、国債先物を売却することによりヘッジをします。この国債先物売りが、当該ゾーンの債券価格を低下(金利を上昇)させる要因になります。

長期金利ゾーンの主な参加者はヘッジファンドや資産運用会社などです。 例えばヘッジファンド戦略やアクティブ運用戦略では、マクロ経済見通しなどに基づいた国債先物の売買や、株式と長期国債との間での資産配分の変更などが行われます。その場合、最も流動性が高く機動性がある10年国債先物を利用することが多いため、その売買動向が長期金利に影響を与えます。

超長期金利ゾーンの主な参加者は生命保険会社です。 生保は保険商品で預かった資金を運用しているため、運用期間が非常に長期になります。

なお、企業年金のように、短期金利ゾーンから超長期金利ゾーンまで、全年限に幅広く分散投資する市場参加者も存在しています。

このように債券市場では、年限金利ごとに異なる市場参加者が異なる目的で投資を行っています。このため、投資のタイミングや金額が異なり、それぞれの年限の金利が短期的に異なった動きをしています。

出所 ラッセル・インベストメント
※点線枠は、各年限金利における主要な市場参加者を示す

金利年限ごとの影響を受ける経済要素の違い

金利年限ごとに影響を受ける経済要素も異なる傾向があります。つまり、どのような経済要素に、どの程度の影響を受けるのかの経済感応度が異なるということです。

一般的に、短期金利は金融政策サイクルの影響を受けやすく、中期金利は景気サイクルの影響を受けやすい、そして長期金利は長期的な実質経済成長率や期待インフレ率、および発行国の財政状況等の影響を受けやすい傾向があります。

出所 ラッセル・インベストメント

※点線枠は、各年限金利に影響を及ぼし得る主要な経済要素を示す

金利年限ごとの金利構成要素の違い

金利年限ごとに影響を受ける経済要素が異なることについて、金利年限ごとの金利構成要素の違いという視点で考えたいと思います。 金利には名目金利と実質金利があります。 名目金利の要素は、概ね実質金利、期待インフレ率、期間プレミアムに分解できます(名目金利≒実質金利+期待インフレ率+期間プレミアム)。そして短期~中期金利ゾーンは、主に金融政策の影響を受けやすいことから、実質金利の変化が影響しやすく、長期~超長期金利ゾーンは、主に長期的な経済成長や経済構造による期待インフレ率、および期間プレミアムの変化が影響しやすくなります。 そのため、それぞれの年限の金利が中長期的に異なった動きをしています。

金融政策が与え得る各金利ゾーンへの影響例

年限金利ごとに、影響を受ける経済要素と影響の度合いが異なることについて、金融政策を例にして見てみます。

利上げは各国の中央銀行(日本の場合は日本銀行)が行いますが、その対象となるのは短期金利です。具体的には短期名目金利を引き上げることになりますが、中央銀行がインフレ率を変更することは不可能ですから、短期実質金利を変更することになります。

利上げにより短期実質金利が引き上げられると、短期名目金利も上昇します。 また利上げがどのぐらいの期間継続されるかとの予想に基づき、中期実質金利も上昇するため、中期名目金利も上昇します。 中期実質金利までの上昇は、長期実質金利の上昇にも波及します。ただし、同時に利上げにより将来的なインフレ率の低下も予想されるため、長期期待インフレ率が低下し、それが長期名目金利や超長期名目金利を低下させる方に作用します。

加えて、利上げにより将来の経済環境や金利環境に対する不確実性が増すため、より大きい期間プレミアムが要求されるようにもなります。これはむしろ、長期金利や超長期金利の上昇要因になります。

このように金利は期間が長いほど、より多くの要素により複雑に決定されています。

金利年限ごとで異なる投資効果を活用

債券の場合、年限や種別によって、市場参加者の違いや経済要素に対する感応度の違いなどにより、それぞれ異なる動きをする傾向があります。このため、アクティブ運用を活用することで、局面ごとの金融政策や経済動向、市場環境などの変化に応じて、適切な年限や種別に投資配分することが重要です。 そして年限や種別ごとの異なる投資効果を活用しながら、景気サイクルや金融政策サイクルを通じて、安定した運用や他投資資産との分散効果に心がけることが大切です。

※本稿では理解の促進を優先して、一部、簡略化・簡易化している部分があります


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