資産運用基礎講座シリーズ

債券運用編(第3回)

コンサルティング部 エグゼクティブコンサルタント 金武伸治

グローバル債券投資の意義

グローバル債券投資をする理由①:債券種別分散

債券投資を行う主な理由は、「利回りの享受」と「株式との分散」でした。

利回りの享受効果を高めるためには、さまざまな債券種別に分散投資することによる、利回り源泉の拡張が考えられます。
債券には国債以外にも、政府機関や地方政府、国際機関などが発行する政府関連債、企業が発行する社債、住宅ローン債権などが担保になっている資産担保証券、新興国が発行するエマージング債など、多様な種別があります。
これらの国債以外の債券種別に分散投資を行うことで、利回り向上効果が期待できます。
しかし国内債券市場の場合、9割以上が国債や地方債、政府保証債で、多様性や分散効果に乏しいです。一方で米国債券市場や欧州債券市場、英国債券市場などの場合、社債や資産担保証券などの国債以外の債券種別にも、一定の規模や流動性があります。
このような観点から、より幅広い債券種別への投資対象の拡張を目的とした、グローバル債券投資が有効となります。

次に、株式との分散効果を高めるためには、国債投資が考えられます。
国債には、株価下落時に金利が低下し、債券価格が上昇するという性質が期待できます。
金利水準が高く、株価下落時の金利低下余地が大きい場合、より高い分散効果が期待できます。ただしこれは、信用リスクの低い国(信用度の高い国)に限ります。
しかし日本国債の場合、長らく低金利環境が続いており、金利低下余地も乏しいです。
このような観点からも、日本よりも金利水準が高く、より金利低下余地が大きい国々へ、株式との分散効果の向上を目的とした、グローバル国債投資が有効となります。

グローバル債券投資をする理由②:景気サイクル・金融政策サイクル分散

債券の分散投資を考える上で、もうひとつ重要な要素が、各国の景気サイクルや金融政策サイクルの違い、言い換えれば、その時々の金利水準や金利上昇タイミングの違いです。特に2008年のリーマンショックを契機とした世界金融危機以降は、米国や欧州、英国、日本、更には新興国などで、景気サイクルや金融政策サイクルに違い(サイクル差)が発生しています。
このため、それらの国々に分散投資することで、金利水準や金利上昇タイミングの違いによる分散効果が期待できます。

「為替ヘッジ」で為替変動リスク抑制

ただし海外債券投資の場合、為替リスクの水準が債券リスクを大きく上回ります。つまり、為替投資をしているようなものになってしまいます。このため、債券に投資している意義を高めるためには、為替リスクを抑制する、つまり「為替ヘッジ」を行うことが一般的です。しかし為替ヘッジを行うと、債券利回りは「為替ヘッジコスト」と呼ばれる要因の分だけ低下してしまいます。ここでは為替ヘッジの構造と為替ヘッジコストについて見てみます。

為替ヘッジとは、あらかじめ一定期間先の為替レートを固定する、つまり「為替予約」をすることで、為替変動リスクを抑制するというものです。ただし、為替予約レートは現在の為替レートよりもやや割高になり、債券の利回りを低下させる方向に作用します。なぜでしょうか。

国内と海外では金利水準が異なります。そして海外の金利水準は、為替リスクを負うことにより享受することができます。言い換えると、為替リスクを負わずに、海外の金利水準を享受することはできないはずなので、結局は、国内の金利水準相当になるという考え方です。つまり為替予約レートは、為替ヘッジを行っている期間(通常は1ヵ月~3ヵ月程度の短期)における海外短期金利と国内短期金利の差を調整する分だけ割高になるわけです。これが「為替ヘッジコスト」です(厳密に言うと、為替ヘッジコストには短期金利差の他に、需給バランスによって発生する「通貨ベーシスコスト」と呼ばれるものも含まれる)。

図表1は、1期間の為替ヘッジ(為替予約)取引をイメージしています。1期間の為替ヘッジが終了すると、新たな為替ヘッジ取引を行います。このように1期間ごとに、新たな為替ヘッジ取引を繰り返すことを、「為替ヘッジのロール」と呼びます。

【図表1】為替ヘッジ取引の例


 
出所 ラッセル・インベストメント


図表1で示すように、為替リスクを負うと米ドル短期金利である3%の利回りが享受できるわけですが、為替リスクを負わない場合は国内の円短期金利である1%が妥当となります。したがって為替予約レートは、現在の為替レート100円に対して内外の短期金利差2%(3%-1%)を割り引いた98円となります。そして、現在の為替レートとの差の2円が為替ヘッジコストということです。つまり為替予約レートとは、1期後に米ドル短期金利を適用した外貨と、円短期金利を適用した円貨とが同じ価値になるように調整された為替レート、ということになります。

為替ヘッジコストの変動要因

為替ヘッジコストの主な要因は、国内と海外の短期金利差です。そして、短期金利を決定する最も大きな要因が金融政策です。
このため、国内短期金利を不変として、海外が利上げ(短期金利の引き上げ)を行うと為替ヘッジコストは上昇し、利下げ(短期金利の引き下げ)を行うと低下します。
また、海外短期金利を不変として、国内が利上げを行うと為替ヘッジコストは低下し、利下げを行うと上昇します。


※本稿では理解の促進を優先して、一部、簡略化・簡易化している部分があります


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第4回:債券種別ごとの性質の違い

グローバル債券市場には、多種多様な債券種別が存在します。その中でも、最も発行額や流通額が大きい債券種別が国債です。国債は国が発行する債券なので信用力が高く、株価下落局面では株式投資からの流出資金が、国債投資へ流入することが多いので、国債価格の上昇による資産分散効果が期待できます。

 

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