資産運用基礎講座シリーズ

オルタナティブ編(第6回)

コンサルティング部 エグゼクティブコンサルタント 金武伸治

不動産・インフラストラクチャー

不動産・インフラストラクチャーの主要な投資理由

 

前回説明したプライベート・エクイティが、主に企業価値の向上に伴うキャピタル・ゲインを狙う戦略であったことに対して、不動産やインフラストラクチャー(以下、インフラ)は、相対的にインカムを期待する戦略であることが多いです。

インカムの享受は伝統的資産である債券にも期待できますが、近年、不動産やインフラへの投資が拡大していることの主な理由として、以下が考えられます。

  1. 相対的に価格変動リスク(ボラティリティ)が小さい
  2. インカムの源泉が伝統的資産とは異なる

価格変動リスクが小さいことについては、プライベート・エクイティと同様に日々の時価変動または評価時価がないことが主な理由です。実際には、不動産やインフラの資産価値評価は鑑定や基準に基づいた手法などで定期的・客観的に算定されています。このため評価上の価格変動は小さく見えますが、本質的には価格変動を伴うリスク資産であることを認識しておく必要があります。

また不動産の場合は賃貸料、インフラの場合は使用料といったように、伝統的資産のインカムとは源泉が異なります。このため収益源泉の拡張効果や分散効果も期待できます。加えて、主に海外では賃貸料や使用料がインフレに連動する契約になっているケースが多くあります。こうしたインフレ・ヘッジの性質を持つことも、インフレに弱い債券に対してリスクを分散するメリットが考えられます。

このように不動産やインフラは、キャピタル性が強いプライベート・エクイティと比較して着手しやすく、投資の第一歩となることが多いです。特に不動産は投資対象となる物件をイメージすることが容易なことも、投資のハードルを下げていると考えます。

ただし不動産やインフラであっても、戦略によってはインカム性が高いものから、キャピタル性を帯びるもの、キャピタル性が高いものまで広範です。戦略を選択する際には相応の注意が必要です。

不動産・インフラの主要な投資戦略

図表1に、不動産・インフラ投資の主要な投資戦略について整理しました。

【図表1】不動産・インフラ投資の主要な投資戦略

コア型

主に稼働中の物件などに投資を行い、インカム収益を狙う戦略

不動産の場合は賃貸料、インフラの場合は使用料がインカムの原資

ただし、経済サイクルや資産価値サイクルに伴うキャピタル損益は発生する

レバレッジは低い傾向

コアプラス型

主な収益源泉はコア型と同じインカム収益

一部、目的を持ってキャピタル収益も狙う戦略

バリューアッド型

インカム収益の獲得に加えて、割安に取得した物件に対して、修繕や改築などを行い収益性を高めることにより、資産価値を向上させキャピタル収益を狙う戦略

開発案件に投資することもある

適度なレバレッジをかける傾向

オポチュニスティック型

市場動向予測に基づいた売買や、開発案件への投資などで、積極的にキャピタル収益を狙う戦略

高いレバレッジをかける傾向

出所 ラッセル・インベストメント

これらは収益源泉が異なることで、リスクの大きさも違ってきます。相対的にインカム収益を狙う戦略のリスクは低い傾向があり、キャピタル収益を狙う比率が高まるにつれてリスクも大きくなる傾向があります。

不動産・インフラ投資における分散投資の重要性

プライベート・エクイティ投資と同様に、不動産やインフラといった投資対象内でも分散投資が重要になります。

図表2に分散すべき主な要素について整理しました。

【図表2】不動産・インフラ投資で分散すべき主要な要素

 

セクター

不動産:

オフィス/住宅/商業施設/物流施設/ホテルなど

インフラ:

社会/公益/輸送/エネルギー/再生可能エネルギー/通信など

地域 国内/北米/欧州/アジア/豪州/グローバルなど
戦略 コア/コアプラス/バリューアッド/オポチュニスティック
サイズ 案件の規模や件数(特にインフラの場合)
ビンテージ 投資時期

出所 ラッセル・インベストメント

分散投資のためのファンド・オブ・ファンズの活用余地

実際に分散投資を行うとなると、相応のファンド数や投資資金が必要になります。またリスク管理や事務管理面での負荷も相当なものになります。このため効率的に分散投資を行う方法として、ファンド・オブ・ファンズ(以下、FOF)の活用も考えられます。

FOFを活用することにより、比較的少額でセクターや地域、また戦略やビンテージなどを分散させることが期待できます。

FOFでは、運用者が全体のセクターや地域の偏りを調整しています。また各戦略への投資については、セクターや地域を含めて、それを得意とする運用者のファンドに投資するよう、選別した分散投資を行っています。加えて、同じタイミングで全ての投資を行うのではなく、経済サイクルや資産価値サイクル、収益機会などを勘案して、時間分散を行いながら投資を進めていきます。このためビンテージ分散の効果もあります。

ただ、FOFは運用報酬が投資対象のファンドとFOF運用者との二重になり、相対的に高くなる点に注意が必要です。また不動産やインフラについては、FOFの選択肢が少ないことも留意点となります。

オープンエンド型とクローズドエンド型の違い

図表3にオープンエンド型とクローズドエンド型の主要な相違点について整理しました。

【図表3】オープンエンド型とクローズドエンド型の主要な相違点

オープンエンド型 クローズドエンド型
運用期間中の新規・追加投資 可能 不可能
途中解約

可能(条件や制約がある場合も)

不可能
運用期間の定め なし

あり(延長がある場合も)

資金効率性 やや劣る 投資家が管理
Jカーブ 分散により軽減 あり

出所 ラッセル・インベストメント

オープンエンド型とクローズドエンド型は流動性のほかに、資金効率性やビンテージ分散にも相違点が見られます。

オープンエンド型の場合、顧客からの途中解約に応じる必要があることから、投資資金の一定程度をキャッシュで保有することや、流動性が比較的高い資産に投資することがあります。このため資金の100%が投資されていない場合が多く、資金効率性がやや劣るとも言えます。

一方でクローズドエンド型は、キャピタルコールや分配金が都度発生するため、キャッシュフローや資金効率性は投資家が管理することになります。

オープンエンド型やクローズドエンド型の活用に対するひとつの考え方

例えば、インカム収益を主に狙うコア型・コアプラス型の不動産やインフラ投資については、相対的にビンテージ分散をきちんと行う必要性は低いです。こうしたケースでは、オープンエンド型で恒常的に投資して、インカムを享受できる状態を構築する方法があります。

一方、キャピタル収益が主な収益源泉で、投資対象の価値向上を狙うプライベート・エクイティ投資や、バリューアッド型・オポチュニスティック型の不動産やインフラ投資の場合、途中解約は価値向上の過程における障害になり得ます。このためクローズドエンド型を前提として、ビンテージ分散を行うことが適切と考えられます。

不動産デット・インフラ・デット

不動産やインフラ投資において、よりインカム性を重視した投資手法としてデット投資があります。つまり不動産やインフラ投資に対するローン(融資)です。

不動産デットやインフラ・デットの場合、投資対象の信用力などによってリターンやリスクの水準は異なりますが、①利息収入がメインであること、②債務弁済順位が高いことなどから、よりインカム性が高いと考えられます。

またデットについては、レバレッジがひとつの留意点となります。

レバレッジとは借り入れのことで、資金を借り入れて投資額を増やすことにより、リターン水準を引き上げるために活用されます。レバレッジは投資効率を上げるための有効な手段ですが、その分、リスクが増幅することに注意が必要です。

※本稿では理解の促進を優先して、一部、簡略化・簡易化している部分があります


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