インパクト投資は新しいトレンドか
※以下は、2019年5月21日にラッセル・インベストメント(英国)のHPに掲載された英文記事を翻訳したものです。原文はこちら。
インパクト投資は初期段階から大幅に成長している投資戦略である。環境、社会およびガバナンス(ESG)案件について前向きな変化と進捗をもたらすことを目標としており、未だ初期段階にあるものの、継続的に成長・成熟している。今回はインパクト投資とは何か、またインパクト投資がプライベート資産の投資に組み込まれる傾向が飛躍的に高まっていることについて述べる。
インパクト投資とは何か、なぜ今注目されているのか
2016年に国連が17の持続可能な開発目標(SDGs)を発表したことを受け、インパクト投資業界の成長率はじりじりと上昇してきた。事実、インパクト投資を通じて世界に直接的な影響を与えることを模索するグローバルの投資家はかなりの数に上り、今も増え続けている。インパクト投資では、金銭的だけでなく社会/環境的にも測定可能なリターン、いわゆる目的を持った利益を追求する。この重要な事例のひとつが風力発電への投資だろう。風力発電ではCO2排出量が相殺されることで社会的インパクトが達成されることに加え、投資家は一般的なインフラ投資から得るのと同様、保有資産が生み出すインカムを収益源とする力強い投資リターンも得ることになる。
インパクト投資の人気は上昇しているようだが、資金調達も増加しているのだろうか
過去数年、幅広い投資家の資金がインパクト投資に流入してきた。例えば、年金基金や保険会社からの資金流入(全体に占める割合)は過去3年間で大幅に増加した。
グローバル・インパクト・インベストメント・ネットワーク(GIIN)の年次インパクト投資調査によると、インパクト・ファンド運用会社の運用資産残高は2017年に2,680億ドル超と、記録的な高水準に上った1。2017年以降、インパクト投資運用資産の残高は2020年までに75%増の4,680億ドルへと拡大し、受益者数は104%増加すると見込まれている2。
しかし、国連の設定した2030年までのSDGsを達成するための要件である年間の資本支出(推定1.4兆ドルから2.5兆ドルの追加支出)と比べると、この金額ですら少額にすぎない3。幸い、投資トレンドはその方向へと向かっているようだ。調査では、「主流派」の投資家を含め、かなりの数の投資家がインパクト投資の商品を求めていることが明らかとなった。インパクト経済が成熟するにつれ、より多くのアセットオーナーが環境および社会的な課題へのソリューションに対する資金提供を優先し、インパクトを追求する運用戦略への資金投入が大幅に増加すると見込まれる。
インパクト投資はどのような領域を対象とするのか
市場が成熟するにつれ、投資機会も拡大している。これまでインパクト投資が対象としてきた領域は以下の通りである。
- 医療
- クリーン・エネルギー
- 教育
- 金融サービスの普及
- 手頃な価格の住宅
- 清潔な水/プラスチックに関連する戦略
- 食の安全
また、インパクト投資では株式と債券の両方の形態で投資することが可能であるが、投資対象企業の経営陣の行動次第では投資による真の「(社会的)インパクト」が希薄化される可能性があることから、私たちは債券形態によるインパクト投資について疑問視している。
インパクト投資マネージャーのユニバースはどの程度の規模なのか
GIINの調査によると、インパクト投資のマネージャーは2017年に187億ドルを調達し、2018年中には20%増の225億ドルの調達を計画している4。しかし、インパクト投資の市場が依然として非常に未熟であることから、インパクト投資に関するデータを入手することはとても困難である。したがって、例えばファンド全体に占める1号ファンドの割合など、今後はインパクト投資ファンドに関するデータの透明性がより高まることが期待される。
ラッセル・インベストメントが観察する限り、インパクト投資市場にはトラックレコードが乏しい(または全くない)1号ファンドや新興マネージャーの数が非常に多い。投資家がインパクト投資において成功するには、プライベート市場のファンドへの投資経験を持つこと、もしくは専門家のアドバイスが必要であると考えている。
現在見られるインパクト投資の運用会社は以下の3種類である
- 複数の戦略を提供する大型マネージャー:プライベート市場投資の運用会社によってローンチされ、比較的規模の小さい顧客にとって複数戦略を提供するワンストップショップとしての恩恵を提供するが、インパクトは希薄化される
- 単独の戦略に集中し、経験豊富なマネージャー:特定の戦略に特化し、ファンド実績に優れた運用会社
- 単独の戦略に集中し、経験に乏しいマネージャー:特定の戦略に特化するも、ファンド実績が限定的な運用会社
定義上、インパクト投資はアクティブ運用である。投資によるインパクトはどのように測定されるか
インパクトの測定方法は恒常的に進化しており、GIINはインパクト投資のベンチマークを導入しようと試みたが、実際に使用するには多くの改善が必要というのが私たちの見解だ。消費者が冷蔵庫、食洗器やテレビなどの電化製品のエネルギー消費を類似品と比較するために使う、エネルギー効率ラベルのような指標が理想的だ。ケンブリッジ大学は上記のイメージに沿った指標を開発し、これを(インパクト・ファンドのみならず)全てのファンドを対象に本格的に展開すべく、多くの英国の上場ファンドと協働している。
上記はイメージ図であり、現実を忠実に反映したものとは限りません。
出所:Getty Images
ラッセル・インベストメントは上記のような指標がいずれ上場市場投資において展開され、その後まもなくプライベート市場投資にも広がると考えている。
結局のところ、インパクト投資における課題とは何か
- 調査の専門知識が非常に重要 - 経験のある運用会社は限られており、1号ファンドが非常に多い。戦略はニッチで急激に進化する場合があり、新興市場(再生可能エネルギーのインフラストラクチャーなど)のような比較的難易度の高い市場へのエクスポージャーを持つことが多い。こうした理由から、投資家はこれらの戦略に投資をする際、専門家のアドバイスを求めることが望ましい。
- インパクトの測定方法は依然進化中 - インパクト測定のための会計基準は未だ存在せず、現在使用されている測定方法は依然進化中である。学術的研究者がインパクト評価を研究する中、測定方法はより明確になりつつあり、GIIN、GIIRS(Global Impact Investing Rating System)およびPrinciples for Responsible Investmentのような組織は業界のための基準の開発を模索している。ケンブリッジ大学のベンチマークツールなど、上場市場における指標開発はさらに進み、いずれプライベート市場にも普及していくことになるだろう。
- 透明性には改善が必要 - 「インパクト・ウォッシング」(グリーン・ウォッシングのような)のリスクを減少させるため、投資家は戦略にコミットメントを行う際に、投資内容の透明性を向上させることの重要性を強調し始めている。
インパクト投資に関するより詳しい内容は、当社の以下のレポートをお読みください。インパクト投資は新しいトレンドか。目的を持ったパフォーマンス:インパクト投資の拡大
1出所:グローバル・インパクト・インベストメント・ネットワーク(GIIN)年次インパクト投資調査報告書(2013–2018年)、KPMG India Analysis
2出所: GIIN年次インパクト投資調査報告書(2013–2018年)、KPMG India Analysis
3出所: GIIN年次インパクト投資調査報告書(2013–2018年)、KPMG India Analysis
4出所: GIIN年次インパクト投資調査報告書(2013–2018年)、KPMG India Analysis